05-04


 翌日、目を覚ましてリビングに行くと、誰もいなかった。妹はまだ寝ているらしい。

 起こそうか迷ったが、どうせ休みなのだしと放っておく。

 結局、妹が起きたのは正午になる頃だった。


 昼過ぎには幼馴染がやってきた。


 例の水族館の話で、予定を聞きにきたらしい。

 どうせ部活以外には予定と言えるものはない。妹も似たようなものだったので、すり合わせは簡単にできた。


 明日らしい。


「急な話だ」


「日帰りだしね」


 そりゃそうだけど。


「で、今日、花火しない?」


「なぜ花火?」


「夏だからだよ」


 納得した。


 そんなわけで、日没ちょっとまえに家を出て、幼馴染の家に行った。

 

 暗くなってきた頃、チャッカマン片手に庭に出る。花火は既に用意していたみたいだった。


 ユリコさんが噴出花火を三つ地面に並べる。まさかと思いながら見ていると、あっという間に三つ揃えて点火してしまった。


「てへ」


「てへじゃないでしょういきなり」


 花火の音が周囲に響く。

 はしゃぐユリコさんを放置して、手持ち花火を配る。


 最初の一本から火を分け合って、全員の手に花火が行き渡る。


「夏ですな」


 ぼんやり呟く。


「だねえ」


 幼馴染が頷いた。


「煙! すげえ煙!」


 思わずはしゃぐ。


「振り回さない!」


 妹に叱られる。


 一本ずつ消化していっても、やがて花火は尽きる。

 火が噴き出す音が消えて、急に周囲に静けさが帰ってきた。


 ユリコさんが袋から線香花火を取り出す。


「じゃあ、一気に火つけちゃう?」


「そこは一本ずつでしょう」


「そんな辛気臭いのは夏の終わりにでもやればいいじゃん。どうせ何回でもするんだから、花火なんて」


 ……そういうものだろうか。


「じゃ、点火します」


 喋っているうちに、彼女は数本の線香花火にまとめて火をつけた。火の玉でかい。


「あ、落ちた」

 

 はええよ。


 片付けが終わった後、俺と妹は幼馴染の家にお邪魔して夕食をご馳走になった。

 満腹になった後、スイカを食べさせられる。


「チューハイ飲む?」


「いただきます」


 何度も言うが俺たちは十六歳(数え年)だった。


「やめときなよ。二日酔いになるよ」


 妹に諭される。

 ぶっちゃけ、酒には弱かった。

 三口で酔う。立っていられなくなる。

 缶一本を飲み干したことがない(ちなみに幼馴染はめっちゃ強い)。

 

 男として負けるわけにはいかなかった。


 結果、缶を半分くらい飲むことができた(歴史的快挙)。


「ちょっと強くなったんじゃない?」


 半分じゃなんの慰めにもならない。体質的に無理なのだろう。


 少し休んでからお礼を言って幼馴染の家を出た。


 夜風に当たると酔いに火照った体を心地よい冷たさが撫でた。

 涼しい。風流。


 ふらふらになりながらも自分の足で歩く。


 家についた。


 リビングのソファに寝転んだ。頭がぼんやりとして心地いいのか悪いのか分からないような熱が全身に広がっている。

 酒を飲むとエロいことを考えられない。不思議と。いい傾向。


 風呂には入らずに顔を洗い、歯を磨いて眠る。


 明日は水族館らしい。

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