05-03



 翌朝には、体調も多少よくなっていた。まだ微熱は残っていたけれど、今日一日休んでいれば治るだろう。

 大事をとって薬を飲んでベッドで寝ておく。食事はリビングに下りてとった。


 十一時を過ぎた頃、昨日言った通りに幼馴染がやってきた。


「はい、缶詰」


「苦しゅうない」


 俺はベッドにふんぞり返った。

 咳が出た。情けない。


「まだつらい?」


「だいぶ楽になった」


 養生しております。


「あのね、風邪が治ってからなんだけど」


「なに?」


「水族館行かない?」


「水族館」


 唐突だった。

 幼馴染はたまに突飛なことを言い出す。たいていがユリコさんの案。

 以前、突然思い立ったといって二泊三日の旅行に行ったこともある。

 今回もどうやらそういうアレらしい。


「いつになるかにもよるけど、うん」


 遠出をすると心が沸き立つのです。


 その後、妹が剥いてくれたリンゴを三人で食べた。





 三日もすれば風邪は治った。誰かにうつった様子もない。とりあえずはほっとした。

 失われた夏休みの一部を惜しみながら、課題を少しずつ消化する。後でまとめてやるにせよ、減らしておくに越したことはない。

 

 平日には祖父の車に乗せられて免許センターに行った。

 書類の空欄を埋めるのに悪戦苦闘する。受付に書類を提出すると今度はたらいまわし。

 適性検査。問題なくクリアする。最後に揃った書類を出して申請が終了する。

 

 待合室の長椅子では、俺と同じくらいの年齢の人たちが問題集と向かい合っていた。

 真似してみようと思って鞄から問題集を出す。すぐ飽きる。緊張で集中できない。


 長い時間待たされてからアナウンスで試験会場へと誘導される。番号に従って席に座る。落ち着かない。


 小心者ですから。


 学科試験は手ごたえはあったが自信はなかった。

 問題はほとんど解けたつもりでいるものの、不安が残る問題が五問以上ある。ケアレスミスがないとも限らない。


 時間を置いて合格者の発表。電光パネルに番号が表示される。

 自分の受験番号を見つけてほっとする。祖父にメールをしながら横目で周囲を見た。


 二人で来たのに、片方だけが受かったと思しき人たちがいた。よかった、一人で来て。あれは気まずい。

 片方が安堵で表情をゆるめているのに対して、もう片方が少しいたたまれないような顔をしている。


 また今度がんばれ。上から目線でそう思った。


 午後の講習が終わってから携帯を開くと、妹からも祝いのメールが来ていた。終わってみると祝われるほど大したことじゃない。


 祖父に電話をすると付近の本屋で待機しているという。歩いていける距離なので、そのまま向かうことにした。


 本屋で部長と遭遇した。手には参考書。自分の未来を見せられているようで思わず不安が浮き上がる。

 少し話をした後、すぐに別れる。次に会うのは部活のときだろう。


 祖父の家に寄って、従兄のナオくん(通称)が昔使っていた原付を譲り受ける。

 彼は車があるのでもう使わないらしい。ちょうどいい。


 さっそく原付に乗って帰る。少しだけ緊張したけれど、運転しはじめると大したことはなかった。

 ただ、多少は心臓が痛かった。

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