04-08
翌日。
基本的にはいい親ではない両親も、妹の誕生日だけはきっちりと休みを取る。
というのも、一度大幅に遅刻した際に妹がかなりのダメージを負ったからだ。
大泣きした。後にも先にもあんなに泣いたのはあのとき限りだ。
普段忙しい人たちで、ゆっくり話をすることも難しいので、特別な日くらいは帰ってきてほしいと思ったのだろう。
その日は結局待ちきれずに先に寝てしまった。かなり落胆していたのか、その日は同じ部屋で寝ようとしたほどだった。
実際、同じ部屋の同じベッドで眠ろうとしたが、それは今は関係のない話だし、俺が役得を感じていたかどうかもどうでもいいことだ。
結局二人が帰ってきたのは日付が変わる頃だった。
物音で目を覚ました俺たちは、両親を出迎えた。嫌な見方をすれば、彼らとしてはなんとか体裁を整えられたということだ。
間に合ったといえば間に合ったけれど、間に合わなかったといえば間に合わなかった。
生活が切迫しているわけでもないのに、それでもどちらかが仕事をやめたりしないのは、やっぱり好きだからなのだろうか。
ふて腐れるような歳ではないにせよ、あんまり面白くない。もうちょっと家庭を顧みろ。
日曜の朝、妹と二人で朝食をとっていると、父が寝室から出てきた。寝癖をつけたまま。
仕事に行くときはぴしっとしているが、家にいるときはひたすらにだらしない。
おはよう、って言うとおはようって言う。挨拶は魔法の言葉です。
三人でダイニングテーブルに向き合って食事をとる。今度は母が降りてきた。
両親の分も食事を用意するのは妹だった。世話を焼いているだけで楽しそうなのでよしとするが、あまり釈然としない。
とはいえ俺も甘んじて世話を受けているわけで、まぁ人のことはとやかく言えない。
だらだらと一日を過ごす。
遠出をしても疲れるし、ゆっくりと過ごすのが休日の正しい過ごし方。
我が家に安心を見つけることで、人々は安らぎを得ることができるのです。
会話がないが、誰かがそれを不服に感じることはない。
仕事の話なんて聞いたところでちっとも面白くないし、学校のことを話したって仕方ない。
ぼんやりテレビを見ながら、それでもリビングに揃う。
二時を過ぎた頃、渋る三人を押し出すようにして出かけさせた。とりあえず店でも回ってきて、帰りにケーキでも買ってくるといい。
「いかないの?」
妹が尋ねる。
「晩御飯は腕によりをかけようと」
不服そうだったが、俺がいないほうが両親も落ち着いて妹と話せるだろう。両方いるとどっちと話せば良いか分からないだろうし。
五時半を過ぎた頃に料理を始める。久々だったので道具の位置やらなにやらで手間取った。
その頃にちょうど三人も帰ってくる。どこに行ったかは分からないが、とりあえず満足そうだった。
寝転がりたがる三人を無理やり並ばせてデジカメで写真を何枚か撮っておいた。
その後、母親が料理の手伝いをしたがった。はっきり言って足手まといだったが、せっかくなので手伝ってもらう。
料理が作りおえてテーブルに皿を並べた頃、ちょうど六時を回った。
たいして苦労したわけではないが、見栄えだけは良かったし量も多いので迫力があった。
父が大食漢だということを考慮したうえでの量だったが、あっというまに減っていった。
食事の後、少し時間を置いてからケーキを切り分ける。なぜか巨大なホールケーキだった。
明らかに余る。
蝋燭に関しては妹が嫌がったので省略した。そういうこともあるだろう。母は残念がっていた。
イチゴの乗ったショートケーキ。シンプル。バースデイケーキ、という形。示唆的。
「おめでとう」
「ありがとう」
ごく平凡(少し過剰なほど)な家族の誕生日が過ぎていった。
◇
買い物に行ったときに、プレゼントはもらったらしい。何をもらったのか聞くつもりはなかった。
両親はリビングに残って買ってきたと思しき酒を飲んでいた。
夫婦水入らず。二人揃うのも久しぶりなのだと思って放っておく。
さっき撮った写真を大急ぎでプリントアウトした。
渡さずにいた写真立てに写真を入れて、妹の部屋に行く。
俺がドアを開けたとき、彼女は疲れてベッドに倒れこんでいたようだった。
「ほれ」
気安げに渡した。照れ隠し。
妹は少し驚いていた。素直に感謝される。照れる。
妹はなんだか微妙そうな顔をしていた。良いことが続きすぎると怖くなるものだ。
「一緒に寝るか?」
軽口を叩く。
「馬鹿じゃないの?」
いつもの調子で言われた。
とりあえず、今日はそこそこがんばった方じゃないかな、と思う。
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