04-06
テストが着実に近付いていた。
ろくに勉強もしないまま、テスト前期間はあっという間に過ぎていく。
サラマンダーやマエストロはなんだかんだで真面目な人種で、残された時間を使って器用に勝率を上げ続けているだろう。
幼馴染も一見普段どおりだったが、彼女はそもそも普段から少しずつ勉強しているタイプだった。
屋上さんは部活がないとストレスがたまるらしく、微妙に声をかけづらい雰囲気だったが、相変わらずツナサンドをかじっていた。
一応、俺もテスト勉強はしていたものの、どこまで効果があるかは怪しいものだった。しないよりはマシだと信じるしかない。
一問でも解ける問題が増えれば、点を取れる確率はあがっていくわけだし。
テスト開始前日、幼馴染と妹の誕生日について話をした。
「プレゼント、決まってるの?」
「いや、それが……」
まだ決まっていない。
CDや本なんて買っても喜ぶタイプじゃないし、化粧品だとまだ早いような気がする。
かといって服なんかは自分で選びたいだろうし、アクセサリーは買っても学校につけていけない。
ぬいぐるみなんかを喜ぶタイプでもない。難しい。
「去年はなんだったっけ?」
「エプロン」
それまで使っていたのが家に置いてあった母のお下がり(ろくに使ってない)だったので、新しいのを買ったのだ。
あまりわざとらしいのは個人的に嫌だったので、水色のシンプルなものにした。気に入ってるらしい。
「とりあえず、考えてもちっとも思いつかないので、土曜につれまわして自分で選ばせることにした」
幼馴染は微妙な顔をしていたが、比較的マシな案だと思えた。
そこで俺が選んだものと妹が欲しがったものを渡せば一石二鳥。我ながら良い案。
「おじさんたちは?」
幼馴染が尋ねる。少し戸惑った。
「いつも通りだな」
彼女は納得したように頷く。
「まぁ、当たり前っていったら当たり前だけど」
「そうでもないだろ」
「そう?」
彼女は不思議そうに首をかしげる。俺が間違っているような気分になってきた。
俺たちは当たり前だと思ってはいけないのです。
昼休み、屋上にいくと、彼女はやはりそこにいた。
屋上さんはサンドウィッチを食べながら単語帳をめくっている。
「……お勉強ですか」
もぐもぐとサンドウィッチを咀嚼しながら彼女は頷いた。
「ねえ、屋上さん、自分が誕生日プレゼントをもらうならなにがいい?」
参考までに訊いてみることにした。
「なんでもいいかな」
気のない返事。
「なんだってうれしいもんでしょ。プレゼントって。あることが重要なのであって」
適当かと思えば、案外まじめな意見。
とはいえ何の参考にもならなかった。
「じゃあ、兄弟っている?」
「妹が二人」
「誕生日にプレゼントってあげてる?」
「まぁ、一応ね」
頷いてから、彼女は俺に疑問を返した。
「誰かの誕生日?」
「妹」
「いるんだ」
彼女は少し意外そうにしていた。
話題がなくなる。俺は必死になって頭の中をあさり話の種を探した。
できれば夏休みになるまえまでに距離を詰めておきたいという下心。
四十連休の間、ずっと会わなかったら忘れられてしまいそうだ。
とはいえ、本当に距離が縮まったら、それはそれで戸惑ってしまうだろう。
このくらいの距離感がちょうどいい、という見方もできる。
ずるいかもしれない。
「ところで屋上さん、ちょっと気になったんだけどさ」
「なに?」
「たとえばここで、女子が着替えてるとするじゃん?」
「何言ってるの?」
頭大丈夫? 的な目で見られる。
「でさ、じっと見てるとするよね、俺が」
心配そうに見つめられる。
照れる。
「でも、下着とか一切見えないんだよ、不思議と」
「さっきから何が言いたいのかまったく分からないんだけど」
「たとえば屋上さんが制服からジャージに着替えるとするでしょう」
「ええ」
「そのとき、屋上さんはスカートのまま下にジャージを履いて、そのあとスカートを脱ぐよね?」
少し考え込んだ様子の屋上さんは、やがて「ああ」と納得するような声を漏らした。
「それが?」
「女の子っていつのまにああいう技術を習得するの?」
彼女は少し呆れてながら、ちょっとだけ考えて、俺の疑問に答えてくれた。
「たぶん、男子の着替えって、周りに人がいても気にしないんだよね?」
「ああ、まぁ」
男子同士でも気にならないし、女子がいても、別になんとも思わない。
騒がれたらまずいので目の前では着替えないだけで。
「でも女子って、男子だろうと女子だろうと、見られるのが嫌なわけね」
「……女子だろうと?」
「女子だろうと。ていうか、男子なら恥ずかしいだけだけど、女子だと本当に見られたくない」
なんとなく理由は想像がつくものの、今まで気付きもしなかった感覚だった。
「それで、毎回毎回隠しながら着替えているから、もはや習性」
習性。面白い言葉が出た。習性だったのか。
和やかな会話をしながら、屋上さんと昼食をとった。
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