04-04



 教室についてからは幼馴染と別行動をとった。

 先週までのことを考えれば、突然一緒に行動するようになるのは不自然だというのもあるが、以前からそういうところがあったのだ。

 お互い、教室にいるときはあまり話しかけあわない。

 なにか理由があってのことではないが、いつのまにかそうなっていたし、特別不満は感じない。


 急に手持ち無沙汰になる。

 先週までどうやって過ごしていたかを思い出せない。

 佐藤たちの大富豪に混ざったり、マエストロが俺の席で薄い本を読んでいたり。

 思い返しながら佐藤たちの方を見る。今日も今日とて大富豪に興じていた。


 俺は佐藤たちの円に割って入って大富豪に参戦した。


「今度は負けないぜ?」


 佐藤は苦笑していた。


 今日の俺は絶好調だった。2が一枚、Aが三枚、ジョーカーが一枚。

 3も4もある。絵札も充実している。これならいける、と俺はほくそえんだ。


 最初は様子をうかがうように強い数字を出し惜しむ三人に対して、絵札を駆使して一気に攻める。

 強い数字を出し切ってから、A三枚とジョーカーで革命を起こす。ワイルドカード。


 あとは大きい数字の順に出していくだけだ。


 俺は勝利を確信しながら9を出した。

 続く佐藤が、8を出した。八切り。


 初手を取った佐藤は6を三枚とジョーカーで革命を起こす。


 結果、俺は大貧民だった。


「……おかしいだろ、あの手札で勝てないって」


 佐藤は困ったように笑っていた。





 昼休みになってすぐ、あくびが出た。大きく伸びをすると、筋肉が心地よくほぐれていくのを感じる。

 ひさびさに授業に集中できた気がした。

 

 妹が作った弁当を持って屋上へ向かう。結局月水が妹で、火木が幼馴染らしい。


 屋上には、相変わらずの顔をした屋上さんがいた。


 ポニーテール。退屈そうな視線。サンドウィッチをもさもさと食べる。

 土日振りに見る彼女の姿は、先週までと少しも変わりなかった。


  俺は彼女の隣に座って弁当をつつく。彼女は俺を一瞥したあと、視線をフェンスの向こうに送った。


「ツバメでも飛んでるの?」


「それが、いないんだよね」


 月曜だからか、彼女は少し眠たそうだった。


 沈黙が落ち着かなかったので、適当な話題を屋上さんに振る。


「テスト勉強してる?」


「まぁ、そこそこ」


 俺は全然してない。

 ……本当にしてない。


「それはともかく」


 分の悪い話題だったので話を逸らした。

 自分で振っておいて、という顔で屋上さんがこちらを睨む。俺のせいじゃない、星の巡りが悪かったんだ。


「このまえさ、グーグルで『堤防』って入力して画像検索したのよ」


「突然なに?」


「したらね、すげえの。なんか癒されるの。あ、この町住みたい、って思うよ、きっと。今度やってみ?」


 感動を伝えようと興奮するあまり口調が変化した。

 でも、よくよく考えると喋り方なんていつも安定してないし、まぁいいか。


「こりゃあすごいと思って、次は『海』って検索したよ」


「そうしたら、どうなったの?」


「沖縄に行きたくなった」


 湘南でもいい。なんか、海っぽいところであればどこでもいい。夏だし、どうにかしていけないものか。海。

 この街から海を見に行こうとすると、車で一時間から二時間。自転車でどうにかできる距離じゃない。


「で、画像検索が楽しくなって、今度は『水着』で検索した」


「そしたら?」


 ――めくるめく肌色世界がそこにはあった。


「ごめん、言わなくてもいい。だいたい想像ついたから」


 屋上さんは察しがいい。


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