03-02


 休み時間、ふと気になってキンピラくんに話しかける。


「キンピラくんって童貞じゃないの?」


「死ね」


 キンピラくんはとてもフレンドリーだ。


「クラスメイトとして知っておきたいじゃん?」


 俺は彼が童貞と踏んでいた。なんか仕草から童貞っぽさが滲み出てる。かっこいいけど。

 なんだろう。童貞だけど不良、的な空気。


「童貞じゃねえよ」


 キンピラくんは不愉快そうに続けた。


「仲間が欲しくて必死だな、チェリー」


 せせら笑うキンピラくん。

 見下されてる感じ。

 ぶっちゃけ、キンピラくんの不良っぽい態度はあんまり怖くない。マスコット的ですらある。

 デフォルメされたチビキャラが煙草吸ってるような雰囲気。


「そっかそっか。キンピラくんは大人だったのか」


 適当に返事をする。


「おまえ信じてないだろ」


 彼は語気を荒げた。


「信じてる信じてる」


 軽口を叩く。彼は毒気を抜かれたように溜め息をついた。


「で、相手は誰だったの?」


「……俺、おまえのそういうところすげえ嫌いだわ」


 キンピラくんに嫌われた。

 あんまりいじくりまわすのも可哀相なので、そこそこで切り上げる。





 昼休みに、屋上で屋上さんと話をする。

 屋上で屋上さんと話をする。奇妙な語感。


 屋上さんはツナサンドをかじりながら言った。


「好き」


「は?」


 深く動揺する俺をよそに、彼女は俺の胸の中に飛び込んできた。「ぽすん」と漫画みたいな音がする。


 なんだこれ。

 なんだこれ。


 エマージェンシー。


「私のこと、嫌い?」


 屋上さんが俺の顔を見上げる。美少女。


「嫌いじゃないけど」


 思わず目をそらす。どこからかいい匂い。柔らかな感触。

 彼女は俺の背に腕を回してぎゅっと力を込めた。

 胸が当たる。

 なんだこれ。


「じゃあ好き?」


「好きっていえば……好きだけど」


「じゃあ好きって言ってよ」


「ええー?」


 どう答えろというのだろう。


「四六時中も好きって言ってよ!」


 サザンっぽい要求をされた。


 どうしよう。


「あ……」


 脳が混乱している。甘い匂いに脳を侵される。どうしろっていうのよ? 頭の中で誰かが言った。やっちまえよ。頭の中のなおとが言った。


「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに君が好きだ」


 消費者金融っぽい雰囲気の返事をした。


 そこで、チャイムが鳴った。


「はい、授業終わり」


 夢だった。

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