02-05



 家に帰ってからリビングのソファに座って妹と『2001年宇宙の旅』を鑑賞した。


 冒頭から意味不明の映画だ。なぜだか数十分間(ひょっとしたら数分かも知れないが、体感時間的には数十分間)猿の闘争を見せられる。

 やがて舞台は古代から現代を通り越し近未来へ。この時点で謎は深まるばかりだ。さっきの猿はなんだったのよ。

 話は静かに進んでいく。宇宙船(厳密には違うかも知れないが、素人から見るとそのようなもの)の中で音もなく進む話。

 やがて人類の月面基地へ。ちなみに舞台設定、時代背景の一切は説明されない。予備知識なしで見たらぽかんとすること請け合いだ。

 

 この映画のすごいところはいくつか挙げられる。


 全編を通して音による演出がほとんどないこと。台詞すらも極端に少ない。そのおかげで眠くなる。

 映像による演出が凝っていること。これそんなに必要か? というシーンにやたら長い尺を取っている。そのおかげで眠くなる。

 にもかかわらずSFファンには高い評価を得ていること。理解ができないので眠くなる。


 以前サラマンダーとマエストロに見てみろと薦めたことがある。DVDを貸した。翌日、変な顔で返された。子供には理解できない世界。俺も理解できない。


 正直に言うと、この映画を最後まで見れたことがなかった。


 今日こそは、と意気込んでみても、眠い。がんばってもラスト十分で眠ってしまう。

 妹は開始三十分で眠っていた。肩に頭が乗せられる。もやもやする。気分が。いろんな意味で。


 仕方ないので眠気を振り払って身体を起こす。妹がぼんやりとした表情で何度もまばたきしていた。

 DVDを入れ替えて『バック・トゥー・ザ・フューチャー』をかける。

 テンポよく進む話。先が読めるのに面白い演出。ちょっとした感動と少しのせつなさ。少しだけブラックなラスト近くの展開。

 掻き鳴らされるギター。若さゆえの暴走、軽蔑、友情・努力・勝利。愛と未来への不安。まさに青春。

 

 でも妹は開始三十分で寝た。たぶん疲れているのだろう。

 

 スタッフロールを最後まで見ずにDVDをしまい、妹を起こした。


「風呂入らないのか?」


 紳士に訊ねる。


「……一緒に?」


「は?」


 なんか言ってる。


 なんばいいよっとねこの子は。


 思わず硬直した。


 何拍かおいてから、妹は正常な意識を取り戻したようだった。


「待て。今のナシ。ナシだ」


 彼女の口調は唐突に荒くなった。二重の意味で硬直する。凍結の重ね掛け。


 お互い何も言えずに数秒が経過する。

 しばらくしてから、妹は何かをごまかそうとするみたいに口を開いた。


「……お風呂入ってくる」


「いってらっしゃい」


 仲がいいのも考え物だ。もう年頃だし。役得といえば役得だけれど。


 その後、風呂に入っていざ寝るかとベッドに潜り込んだ瞬間、期末テストが近いことを思い出した。


 ……勉強しとこう。


 ベッドから這い出て電灯をつける。カバンから筆記用具を取り出して机に向かった。


「……めんどくせ」


 結局、教科書を一通り読み返すだけにした。何もしないよりはましだろう。

 飽きてきた頃に教科書を開きながらPSPの電源を入れた。三国志Ⅷをプレイする。

 強力な登録武将を大量に作成して新勢力で敵を圧倒した。


 飽きたのでお勧めシナリオの赤壁の戦いから諸葛亮を選択してプレイする。

 夏候淵に離間をかけ続けて内通、登用。都市ごと寝返らせて一気に三都市を制圧する。

 少しずつ軍を進めて勢力を拡大していくが、なかなか人口が思うように増えない。

 そうこうしているうちに夏候淵が曹操軍に都市ごと寝返る。太守変えとけばよかった。

 前線だからと前に押し出していた大量の兵が露と消える。なんてことをしやがる。


 むなしくなってやめた。


 ゲーム機の電源を落とすと同時に、まったくページの進んでいない教科書が机に載っていることに気付いて愕然とする。


 そんな馬鹿な。


 気付けば深夜二時。

 

 今までの時間はなんだったんだろう。どこに消えたんだろう。


 無性にやるせない気分になり、ベッドに潜り込んだ。

 寝てしまおう。明日、勉強しよう。


 夢は見なかった。


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