01-10
その日、変な夢を見た。
夢の中ではなおと(目覚まし)が擬人化していた。
「なぁ、なおと……どうやったら、童貞卒業できるのかな」
真剣な悩みだった。
なおとはダンディに答える。
「……恋、しちゃえばええんちゃう?」
夢の中のなおとはエセ関西弁だった。
「っていっても……好きな人とか、いないし」
「ちょっと気になる子とか、おらんのん?」
本当にこれ関西弁か? と疑問に思った。
「気になる子……」
俺は仲の良い何人かの女子の顔を思い浮かべた。
幼馴染(彼氏持ち)。屋上さん(嫌われている)。茶髪(化粧すごい)。部長(距離がある)。妹(血縁)。
「いや、妹はナシだろう」
自己ツッコミ。
「それをナシにしても障害ありすぎだろ……」
「たとえば?」
なおとは標準語のイントネーションで訊ねた。
「彼氏とか、嫌われてたりとか、ろくに話したことなかったりとか……」
目覚まし時計が呆れたように溜息を吐く。
「なんだよ?」
ちょっと不服に思って問い返すと、なおとは静かに答えた。
「障害くらい、なんだっていうんだ。ちょっとくらいの壁、乗り越えろ。男だろ」
ダンディだった。
こんな男になりたい、と真剣に思った。
目覚まし時計に諭されてるあたり、自分が本気で情けなくなる。
「恋人がいるくらいなんだ! 本気で好きなら寝取れ! 『遠くから彼女の幸せを祈ってる』なんて馬鹿な言い訳はやめろ! 好きでもない男に幸せを祈られてるとか女からしたら気持ち悪いだけだ! 好きなら彼氏がいようと直球でいけ!『彼女が幸せならそれでいい』とかな、自分に酔ってるだけ! 気持ち悪いんだよ! 女なんてラーメン屋と一緒だ! いい店なら客がいて当たり前なんだよ! 彼氏のいないイイ女なんているわけねえだろ! 分かったら電話をかけろ! 話しかけろ! 家まで押しかけろ! しつこく声をかけ続けろ! 嫌になるまで諦めるな!」
「……なおと」
最初の方には感銘を受けかけたが、最後の方は普通にストーカー理論だった。
あと途中でうちの妹さまに対する悪口が聞こえた気がする。
あえて彼氏を作らない、そんないい女だっていると思います。
「ろくに話したことがない!? だったら話しかければいいだろうが! 仲良くなればいいだろうが! 自分の臆病を棚にあげて何が障害だ! おまえが少し勇気を出せば変わる問題じゃねえかよ! 嫌われたくない? 馬鹿にすんな! 相手にされないくらいなら嫌われた方がマシだ! 嫌われたらなんだよ! 嫌われたらおまえは生きていけないのか? 人間なんて生きてれば理由があろうとなかろうと嫌われるもんなんだよ! 話しかけられないなんていう臆病な言い訳は実際に嫌われてから言え!」
「いや、実際に嫌われてたりするんだけど」
屋上さんとか隣席の眼鏡っ子を思い出す。
どう考えても嫌われていた。
「おまえはその子の心が読めたりするのか?」
「え?」
「あのな、自分が好かれていると思うのが勘違いなように、自分が嫌われていると感じるのも思い込みなんだよ」
「そんなこと言われても……」
実際に言われたわけだし。
「素直になれないだけかもしんないじゃん! ツンデレかもしんないじゃん! 勝手に判断すんなよ!『俺のこと嫌い?』って真顔で聞いてみろよ!」
「できるかそんなこと!」
「このヘタレめ!」
もう意味が分からなかった。
面倒になったので右ストレートを発動してなおとを黙らせた。
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