01-08
家につくと妹が料理していた。
後ろから抱きしめた。もがかれた。そのうち大人しくなった。十分間じっとしていた。お互いの息遣いと時計の針の音だけが聞こえる。
背の低い妹の肩は俺の胸元にすっぽり収まる。妹のつむじに鼻先を寄せて触れさせた。息を吸い込むとシャンプーのいい匂いがする。
妹の肩が抵抗するみたいにびくりと震えた。それもすぐに収まる。目の前に妹の黒い髪が艶めいていた。
腕の力を強めると妹は足の力を少し抜いたみたいだった。自分の息遣いがいやに大きく聞こえる。
身体を密着させると妹の身体の細さと小ささがはっきりと分かった。服越しに感じるぬくもりに、なぜだか強く心を揺さぶられる。
目を瞑ると深い安心があった。腕の感触と鼻腔をくすぐる香りに集中する。妹の身体に触れている部分が、じわじわと熱を持ち始めた。
それと同時に焦燥のような感情が生まれる。罪悪感かも知れない。
俺は何をやってるのだろうと、ふと思った。
冗談のつもりが、思いのほか抵抗がなかった。
なぜか心臓がばくばくしていた。妹相手なのに。顔も熱い。
危ない雰囲気。これ以上はまずいだろうと思ってこちらから拘束を解除した。
俺を振り向いた妹の顔は、暑さのせいか少し赤らんで見えた。瞳が少し潤んでいるようにも見えた。多分それは錯覚。
直後、彼女が右手に包丁を握ったままだったことに気付いてさまざまな意味で戦慄した。
危ねえ。やばそうだと思ったら放せ。俺が言えたことじゃない。
「晩御飯抜き」
クールに言われる。後悔はない。
実際には既に準備をはじめていたらしく、食卓には俺の分の食器も並べられていた。
「愛してる」
「私も」
愛を語り合った。妹は棒読みだった。
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