第4話 隣国へ到着

 ホテルを出て、2人は再びアレアフトと合流した。

隣国まで残り半分、3人は出発した。


「そういえば、宿はどうでした?」


「あ、ものすごかったです! まさかあんなに高級な部屋の招待券をもらうなんて……本当にありがとうございました!」


 キシは感謝を伝え、キシとレイは頭を下げた。


「――――えっ……あのチケットって、そんなに良いやつだったんですか!?」


「ええ。貴族の方が泊まるような、超高級な部屋でしたよ?」


「そ、そうですか……。それは良かったです」


 実は、アレアフトは招待状の中身を完全把握していなかったのだ。

同僚からいらないからあげると言われて譲ってもらったのだが、そもそも運び屋というのは会社から宿泊代を負担してくれるため、それほど宿泊に困らない。

招待状をもらったところで使い道がないため、今回、キシとレイに譲ったのだ。

 しかし、渡した招待状は貴族たちが泊まるような最高級ルームがついたもの。

キシとレイから部屋の中を聞いて、少し後悔した。


 「ヒヒーン!」


「おっと! どうしたんだい!?」


 突然、荷馬車を引く馬が騒がしく鳴き始め、飛び跳ねる。

アレアフトは紐を引っ張り、何とか暴れる馬を抑えようとする。


「キシ! あの奥にモンスターがいる!」


「あれは……ウルフの群れ……いや、ワーウルフの群れか! アレアフトさん! 俺たちが何とかしますんで、そのままでいてください!」


「わ、分かりました! お願いします!」


「行くぞレイ!」


「うん!」


 キシとレイは荷馬車から飛び降り、馬車の前方にいるワーウルフの群れへ向かう。

鼻が良いワーウルフは、突然違う匂いが漂ってきたことを感じ、一斉に2人の方へ向いた。

キシは鬼化を発動し、ワーウルフを駆除しようとしたその時だった。


「待ってキシ! 止まって!」


「おわっ!?」


 レイはキシの腕を掴んで引っ張った。

急ブレーキをかけられたことでキシの体は仰け反り、腕が引きちぎられそうになった。


「ど、どうしたんだレイ……?」


 強い力で腕を引っ張られたため、キシは自分の左腕を右手で抑える。


「このワーウルフたち……何だか戦意がないみたい。それどころか、わたしたちに助けを求めてる」


「えっ? ちょっ! レイ危ないって!」


 レイはキシの忠告を聞かず、ワーウルフの群れへと歩み寄った。

ワーウルフたちはレイを見上げていたが、襲おうとは全くしない。

すると、レイは一匹のワーウルフの前にしゃがんで顔を覗き込む。


「――――わたしの名前はカゲヤマ・レイ、赤鬼と青鬼との間に生まれた人間。何があったのか教えて欲しい。わたしが何とか出来るかもしれないから……」


「――――」


 犬のような鳴き声をすることもなく、ワーウルフはレイの顔をじっと見つめる。

キシはレイがワーウルフとやり取りをしているのだろうと考え、ちょっと離れたところから見守ることにした。

ただ、相手は凶暴なワーウルフ。

念の為、一応警戒をしておいた。


「――――分かった。それくらいならわたしにも出来るから任せて。キシ、アレアフトさんのところに行ってここまで連れてきて。害を加えるようなことをする気はないって言って欲しい」


「わ、分かった」


 キシはレイの指示通り、アレアフトのもとへ向かった。

暴れていた馬は落ち着きを取り戻し、馬車は再び進みだした。

アレアフトは、何が起こっているのか全く分からないため、状況を把握してないまま馬車を動かした。

 そして、馬車はレイがいる横に停まった。

アレアフトは乗ったままレイの様子を見下ろしていた。

すると、レイの前には、前足を怪我したワーウルフが座り込んでいた。


「うんうん、もうちょっとで治るからじっとしててね」


 怪我をしたワーウルフは、レイの言葉をしっかりと理解しているように頷いた。

もう既にこの光景を何度も見ているキシは特に反応を示さず、ただレイと怪我をしたワーウルフを見守っていた。

 それに対して、アレアフトは初めて見るその光景に思わず口を開けた。


(レイさんの言葉を理解している……? 討伐が難しくて危険視されているあのワーウルフの言うことを聞かせているなんて、やっぱりこの人達はすごい人達なんだなあ)


 一生で一度でも良いから、この2人の姿をこの目で見てみたかったアレアフト。

この2人の偉大さに感動するのであった。

 少し時間が経つと、ワーウルフの前足は完治した。

怪我をして座り込んでいたワーウルフは元気よく立ち上がり、仲間たちのもとへ歩み寄った。


「ふう……これで大丈夫そうだね」


「お疲れ様、レイ」


「うん、ありがとうキシ。どうやら冒険者に矢を打たれたみたい。自分で矢を抜いた後すぐにわたしたちが来たから良かったけど……もうちょっと遅かったら命の危険があったかもね……」


「そうだったのか……。良かったな、俺たちが通りかかって」


『ワフッ!』


 キシの言葉に、本当にそうだと言うかのように、ワーウルフは鳴いた。

そして、ワーウルフの群れは左方向へ走って行ってしまった。

レイはワーウルフの後ろ姿を見送りながら手を振った。


「いやあ、レイさんのその力はすごいですね! そういう魔法なんですか?」


「うーん……魔法のようで魔法ではないです」


「えっ、どういうことですか?」


「魔法はあくまで攻撃とか自分の身体能力に特化したものです。つまり、魔法というものは表面的なんです。でも、ワーウルフのような人間以外の場合は違います。そもそも言葉は通じないし、体の構造も違います。だから、魔法じゃ補い切れないんです。言葉の通じない相手をどれだけ理解しようとするか……」


「――――念力のようなものですか?」


「念力は物体を動かす超能力のことですが……だいたいは同じような原理です」


「そうなんですか……。勉強になります」


 アレアフトは口を小さく開けながら、レイの説明を聞いていた。

年齢は自分より少し下か同い年くらいなのに、これほど博識だということに驚いていたのだ。

 それもそのはず。

レイは元々は陰陽師だったため、超能力的な知識に関しては詳しく、また頭も良いため、魔法に関しても博識の知識を持っていた。


「それじゃあ……先に進みましょうか。目的地までもう少しですよ!」


 こうして、馬車は再び動き出した。

この先はモンスターに会ったり、トラブルに巻き込まれることもなく順調に進み、夕方になった頃には目的地の逓駅に到着した。


「お疲れさまでした。では、観光じっくり楽しんできてくださいね!」


「はい、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 キシとレイはアレアフトにお礼を言い、国境の門へと向かった。

アレアフトは、2人を見送った。


(キシさん、レイさん……。ありがとうございました。僕の夢を叶えてくれて!)










◇◇◇









 逓駅から歩いて1分、国境の門の前まで来た。

沢山の人や魔族たちが列を成している。


「ここが、ビダヤの隣国。魔物の国……シャイタンか」


「そこの2人、ちょっと待ちなさい!」


「――――!?」


「な、何!?」


 突然声が聞こえ、立ち止まる2人。

すると、門の上から女性が1人降りてくる。

レイはすぐに、この人物がとんでもない力を持っていると感じ取った。

それはキシも同じだった。

 自然とキシは身構える。

空気は完全に戦闘と化していた。


「――――! ルーカス来てくれたのね、ちょうど良かったわ!」


「また新たな人物が来ちまったか……。厄介事は本当にゴメンだ……」


 女性の隣に突然魔法陣が現れたかと思えば、また新たな人物が現れた。

そして、キシはすぐに感じた。


(こいつ……只者じゃねえ……!)


 その男性から滲み出ているオーラは、想像を絶するものだった。 

それはレイも同じで、思わずキシの腕を掴んで怯えてしまった。


「ねえキシ! ど、どうするの!?」


 レイはキシを見上げながら、怯えながらそう言った。

キシは何とかレイを安心させようと、レイの頭に手を置く。


「あ、あなたたちは何のためにシャイタンへ来たのかしら?」


「何って言われてもなあ……。俺たちはただ観光をしに来ただけだけど?」


 ここは戦意を見せず、警戒されないように、キシは普段の言葉遣いで話す。

しかし、これが逆効果になってしまい、さらに警戒させることになってしまった。

男性も剣を鞘から抜き、キシに刃先を向けた。


(ったく……こっちから動くしかないか)


「わたしたち何かしちゃったの……?」


「大丈夫だレイ。俺が何とかして説得するからな」


 心配になるレイと、安心させようとまた彼女の頭を撫でてあげるキシ。

そして、キシは一歩前へと歩み出た。

前にいる2人はキシが歩み出たと同時に、さらに警戒を強め、身構えた。


「おっと! 俺たちは別に戦いたくない。先に名前を言ったほうが良いな。俺の名前はカゲヤマ・キシだ。で、俺の隣にいるのはカゲヤマ・レイ」


 キシは自分とレイの名を述べた。

レイは慌てながら頭をペコリと下げた。


「えっ……カゲヤマ……?」


 女性はキシの名字を小さな声で言うと、突然身構えが緩くなる。

どうやら、名前を聞いて驚いている様子のようだ。


「どうしたんだミライ」


 驚く表情を見た男性は、その女性にそう聞く。


「か、カゲヤマって……まさかあななたち……日本の転生者、なの……?」


「は?」


 女性の名前『ミライ』という言葉を聞いた途端、キシはすぐに理解した。

この女性は、日本からこの世界に来た転生者だということを。

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