第3話 宿場町で一泊

 部屋の装飾に気を取られながら、恐る恐る部屋の中に入るキシとレイ。


「い、良いのか? 俺たちがこんな部屋に泊まってモ……?」


「でも折角もらったわけだシ……良いんじゃないノ……?」


 ちょっとカタコトになりながら囁く2人。

とりあえず、部屋の中の様子を探ってみることにした。

 正面には巨大な窓があり、壮大な草原が広がっている。

それを望みながら、ゆっくりとお茶でも飲めるようになってる高級ソファーとガラステーブル。


「ガラスのテーブルなんて、ビダヤにないよな?」


「ガラスなんてこの世界じゃ結構高級だよ! それに床のカーペットも……」


「これは……見たことない模様の刺繍だな。この街独特の模様なのかもな」


 キシの予想通り、カーペットの刺繍の模様はクフ独特のもの。

昔から宿場町として栄えたこの街は、様々な国からの用品が手に入れられる。

そのため、クフは様々な国の文化が混合している。

カーペットの刺繍の模様もそれが影響され、年月を経て独自のものへと生まれ変わったものなのである。


「まあとにかく……すごい部屋の招待状をもらってしまったってわけか。明日改めてお礼しないとな」


「そうだね。それに……」


 レイの言葉が途切れ、キシはレイを見た。

すると、レイの顔がみるみると赤くなっていくのが分かった。


「それに……キシと2人きりで、こんな部屋に泊まれるなんて……なんかすごくロマンチックっていうか何ていうか……その……」


「――――!」


 キシに自分の顔を見られるのが恥ずかしいレイは、キシとは反対側の方向を向いた。

それを見たキシも顔を赤くした。

高級な部屋、自分が大好きで大切な人レイと2人きり。

どう考えてもラブホテルと変わらなかった。


「――――」


「――――!? キ、キシ!?」


 キシはレイを後ろから抱きしめた。

レイは驚いて、キシの方へと振り向いた。


「レイ……さっきも馬車の中で話したけど、俺はレイに会えて本当に良かった」


「キシ……うん、わたしもキシと出会えて良かった! 大好き!」


 愛をお互い伝えたキシとレイ。

しばらく見つめ合った後、お互いに顔を近づけてキスをした。

 部屋に流れる空気は完全に2人に支配され、もっともっと……と2人を急かす。

それに押されるように、2人もお互いにお互いを欲しがり始めていた。

 2人は、またキスをした。

先程とは違い、今度は舌も絡ませ合った。


「――――ん……はあ、はあ……」


「はあ、はあ……」


 長い時間して、ゆっくりと顔を離した。

そして、また2人は見つめ合った。


「キシぃ……」


 キシは自分の名前を呼んだだけで分かった。

レイの体と脚を支えて持ち上げると、お姫様抱っこをしながらレイを連れて行った。

レイはその時もずっとキシを見つめたままで、完全にキシの虜になってしまっていた。

 キシはベットの上にレイを座らせた。

そして、レイの隣に座った。


「キシぃ……。えへへ、キシ大好きぃ」


「ああ、俺も大好きだ。レイ」


 雰囲気に飲まれたまま、2人はさらに先へと進んでいった。

レイは終始キシを欲しがり、キシはそれに応えつつレイを欲しがった。










◇◇◇










「う、ん……」


 翌朝……。

最初に目を覚ましたのはキシだった。

目を開けると、眼の前にはレイの寝顔があった。


(いやしかし……高級なホテルでレイと2人きりというのは、やっぱりヤバいな。ラブホに行くカップルの気持ちが良く分かった……)


 昨日の夜を思い出しながら、レイの頭を優しく撫でながらそう感じていた。


「ん……キシ……おはよう」


「おはようレイ。よく眠れたか?」


「うん……」


 目が覚め、ゆっくりと目を開けたレイ。

キシの声には反応しているものの、まだ完全に目が覚めていないレイは、キシの顔を見つめたままぼーっとしていた。


「――――レイ? 起きられそう?」


「うん……。起きる前に……おはようのチュー欲しい」


「はいはい……。全くレイは……」


 呆れたような様子で言っているが、キシの頭の中ではかなり喜んでいた。

寝ぼけた姿でねだってくるレイがとても可愛いすぎると大声で叫んだ。

 2人はお互いに顔を近づけ、キスをする。


「ん……。結局は嬉しいんだよね?」


「えっ!? ま、まあそうなんだけど、ね……」


 レイに心を読まれ、キシはレイから視線を逸した。

そんなキシの表情に、思わずクスクスと笑った。

そして、布団の中でモゾモゾと動きながらキシに近づいた。


「そこが可愛いなって思っちゃうところなんだよね。いつもは守ってくれるし助けてくれる格好良いけど、たまに可愛い一面を見せてくれるところも、わたし大好き。あれあれ〜? どんどん顔が赤くなっちゃって……」


 からかって楽しんでいる表情を見せながら、レイはキシが恥ずかしがっている表情を楽しんでいた。

しかし、キシもこのまま押されてばかりではいられなかった。

キシは反撃に出た。


「くっ……! お、おいおい。そんなこと言ってるけど、レイだっていつも俺に甘えてばかりで、俺がしばらくいなくなるって言った途端、大泣きして俺にしがみついて、行かないで欲しいって大声で叫んでいるじゃないか?」


「――――っ!?」


「それに、レイはいつも可愛いんだ。そう、守ってあげたくなるし、俺に甘えてくるレイをもっと甘やかしたくなっちゃうし……。俺はレイが可愛すぎて仕方ない」


 キシはレイに顔を近づけた。

レイはどんどん顔を赤くしていき、俯いてしまった。


(よし! これで反撃出来たぞ!)


「でもそれって……結局はキシはわたしに負けを認めているってことだよね?」


「は?」


「最初は良かったのに、甘やかしたくなるって……。それじゃあわたしに負けを認めちゃうことになっちゃうけど……」


「ちくしょおおおおおおおおお!!!!」


 もじもじしながらキシにそう言うと、キシは両手で頭を抱えながら叫んだ。

意地を張っているのに、ドジをかましてしまったキシを見て、また可愛いと思うレイ。

そして、キシはこの子には敵わないなと感じるのであった。


「――――じゃあ、そろそろ着替えて外に出ようか」


「あ、逃げたねキシ」


「べ、別に逃げたわけではないからな? そろそろ向かわないと行けない時間かなって思っただけで……」


「そこまで意地を張らなくても良いのに……。ふふっ、まあ、そこがまたキシらしくて好き」


 そう言って、レイはキシを抱きしめた。

女性特有の肌の柔らかさ、そして細くて柔らかい紫色の髪が、キシの素肌に直接当たる。

キシもレイを抱きしめて、お互いの想いと温かさを感じるのであった。

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