第2話 初めての隣国へ出発
一週間後、ヒカルとラン、アースィマとオーウェルとナーシーに見送られながら、キシとレイは馬車に乗って隣国へと向かった。
隣国までは遠く、2日近くはかかる。
途中に宿場町があり、そこで一泊をした後、朝早くに出発して夜に到着する予定になっている。
馬車に乗っていれば、必ずと行っていいほどモンスターが襲ってくるというイベントがあると想像するだろうが、今回使うルートは旅客・貨物輸送ともに重宝されており、モンスターは滅多に出てこない。
もし出てきたとしても弱小モンスターのみで、キシとレイはビダヤのトップに君臨する実力者。
心配などご無用だった。
「いやあ、まさかあの有名なキシさんとレイさんを乗せることになるとは、夢みたいです!」
「そこまで褒めなくても……」
キシとレイを乗せて馬車を動かしている1人の若い男が、2人に話しかけた。
名前はアレアフトといい、馬車による運び屋になってから1年経つ新人だ。
「いやいや! キシさんとレイさんが乗っていれば、万が一モンスターに襲われた時でも任せられるのがすごい安心感あるんですよ。普通なら戦えない人がほとんどなので、1人
「「ああ〜……」」
何となく想像がついたキシとレイ。
実際に見たことはないが、噂で耳にはしていた。
そもそも、馬車の護衛依頼はランクが高くなくても受けられる。
流石に最低ランクは受けられないが、1つランクが上がると安易に受けられるため、未熟な人たちが集まってくる。
すぐ受けられるという利点、それに何が起きるかわからないため、報酬金は割と高めという理由で受けるという新人冒険者がほとんどだ。
そのため、キシやレイのような高いランクを持っていて実力がある冒険者が馬車に乗っているというのは、どれだけ心強いことか。
アレアフトはとても安心して馬車を動かすことが出来た。
「この道はあまり被害情報聞かないので安心できるルートなんですが、極稀にモンスターが出てくることがあるので、一応警戒をお願いします」
「大丈夫ですよ。俺の嫁さんが常時感知してますんで」
「か、感知!? それって敵の位置とかを探せるってことですか……?」
「そうです」
「そ、そうなんですね。すごい……って2人ってご夫婦なんですか!?」
「もうキシ、何でそんなこと言っちゃうの?」
「レイを自慢したくて……」
「もう、キシのバカ……」
レイの魔法に驚いたが、もっと驚いたのは2人が夫婦だったということ。
アレアフトは2人のことを知ってはいたもの、結婚しているとは知らなかったのだ。
自分の後ろで2人でイチャつく声が聞こえ、
(あ、これは結婚してるっていうのも納得)
と、すぐに理解したのだった。
「お2人は……どこが決め手で結婚したんですか?」
「えっと……」
「独りぼっちだったわたしに話しかけてくれたのがキシだったんです。その後、同じ宿舎で暮らすことになって……。戦っている姿、特にわたしを救ってくれたことが決め手でした」
「俺は……最初は無表情だった彼女が、段々と笑うようになっていったのがきっかけですね。それに、いつも俺の隣にレイがいてくれることがとても嬉しくて……」
「すごい良い話じゃないですか! えっと……プロポーズはキシさんからですか?」
「はい」
「どんなことを伝えたんですか?」
「えっ……!? えっと……」
戸惑いながら、ついレイの顔を伺ってしまった。
レイは期待の眼差しでキシを見つめていた。
もう言うしかなかった。
「えっと……俺はレイに出会えて良かった。大切なものも出来た。だから、俺はレイをこれからも守っていくし傍にいる。だから……俺と結婚してください……って言いまし、た……」
あまりにも恥ずかしすぎて、語尾が小さくなってしまったキシ。
彼の顔は真っ赤に染まっていた。
「えへへ、あの時はすごく嬉しかったよ」
「めちゃくちゃ良い言葉じゃないですか! そりゃあレイさんも喜ぶに決まってますよ!」
アレアフトは興奮気味にそう言った。
レイは久しぶりに聞いたポロポーズの言葉に嬉しさが溢れて、思わず頬を赤くして笑みをこぼした。
その表情はキシにとって、もう天使のように見えてしまい……顔を手で覆ってしまった。
(ああ、自分もこんな夫婦生活を送ってみたいなあ……)
アレアフトは後ろからひらひらと飛んでくる蝶を手で追い払いながら、ほのぼのとした気持ちで馬車を動かしていた。
その気持ちは馬車馬にも伝わったようで、いつもより穏やかな気分で馬車を引っ張っていた。
◇◇◇
目的地に着くまで、3人は色んな話をして仲良くしていた。
話で盛り上がっていればあっという間に時間というものは流れていくもので、気づけば1日目の目的地に近づいていた。
「あ、キシさん、レイさん! もうすぐ着きますよ!」
「おお、いつの間にかそこまで来てたのか」
「これから街に入って逓駅まで向かいます。そこで降りて頂いて今日の移動は終わりです」
「分かりました。ありがとうございます」
馬車は小さな街に入った。
この街の名前は『クフ』と言い、古くから国と国を結ぶ道の中間として栄えている宿場町である。
平坦な土地、資源も豊富のため、開発も便利なためにこの場所に街が作られた。
さて、アレアフト率いる馬車はクフの中心に位置する逓駅に到着した。
キシとレイは馬車から降りて、アレアフトにお礼をした。
普段はお礼なんて言われないアレアフトは困惑し、手を胸元で振ってアワアワしていた。
(この2人はどれだけ良い人なんだろう? こんな律儀な人初めて見た……)
元日本人であるキシとレイにとっては当たり前のことだが、この世界ではそこまで当たり前ではないため、アレアフトは感激していた。
「では、明日はここに朝集合です。遅れないようにお願いします。また明日も長旅になるのでゆっくり休んでくださいね」
「はい、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
「あっ! ちょっと待って下さい!」
キシとレイは改めてアレアフトに頭を下げると、宿舎を探そうと動き出そうとした時だった。
アレアフトは2人を呼び止めた。
「あの……もし良かったらこれ使って下さい」
アレアフトはポケットの中から、1枚の紙を取り出しキシに手渡した。
「これは……?」
「これは招待状です。同じ仕事仲間からもらったんですけどなかなか使う機会がなくて……。なので、お2人で使って下さい。チケットの裏に場所が書かれているので……」
「い、良いんですか? わざわざこんなものを……」
「はい! お2人とお話するのとても楽しかったですし。なので僕からのお礼です。遠慮はいらないのでぜひ受け取って下さい!」
「――――何から何までありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ楽しませてくれてありがとうございました!」
「では、また明日もよろしくお願いします」
「はい!」
「じゃあ行こっかレイ」
「うん!」
キシとレイはチケットの裏面に書かれている、ざっくりと書かれた地図を見ながら宿舎へと向かっていった。
アレアフトは2人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
(キシさんとレイさんか……。すごく良い人たちだったなあ……。また明日2人といっぱい話したいな!)
そう思って、明日の移動も楽しみにしていたのだった。
◇◇◇
一方、キシとレイはチケット裏に書かれた地図を見ながら、宿舎へと向かった。
そして、着いたところはというと……。
「ほ、本当にこれなの……?」
「こ、これで間違いみたいだな……。いや、でかすぎるだろ!」
想像を遥かに超える、高級ホテルだった。
入り口だけでもわかるほど、豪華で高そうなホテルだった。
2人はお互い顔を見た後、とりあえず中に入り、受付カウンターへと進んだ。
受付カウンターにいる女性の衣装も高級感満載だった。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「あの、これを使いたいんですが……」
「はい、ではお預かりしますね」
キシはアレアフトに渡されたチケットをカウンターに渡した。
受付の女性はそれを受け取ると、チケットを見ながら奥に入った。
少しして、鍵を持ってカウンターへ向かってきた。
「では、こちらがお客様がご利用するお部屋の鍵となります」
「あ、はい。ありがとうございます」
カウンターの女性から鍵を渡され、それを受け取ったキシ。
番号から、7階だと判断したキシは、早速7階へ。
階段を登り、7階まで行くと、自分たちが使う部屋番号へ向かった。
「これか? これだな」
キシは鍵に付けられた番号と部屋番号を照らし合わせ、同じだと確認できると、鍵穴に鍵を差し込んでひねる。
カチャンという音が鳴り響き、キシはゆっくりとドアを押した。
そこから広がる景色は……。
「えっ?」
「――――す、すごい……!」
2人は思わず立ち尽くしてしまった。
部屋は完全に大富豪たちが泊まるような、超高級ルームだったのだ。
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