特別編
第1話 新婚旅行(?)の提案
ここは冒険者の街ビダヤ。
今日も天気は快晴で、たくさんの人が通りを埋め尽くしている。
そんな中、街の中心にそびえ立つ冒険者ギルドから、東側に伸びる大通りの突き当りに、ある一軒の宿舎がある。
「行ってきます!」
「行ってきまーす!」
宿舎の玄関から出てきたのは、青髪で目付きの悪い少年と、紫髪の少女。
カゲヤマ・キシとカゲヤマ・レイだ。
この有名な仲良しおしどり夫婦は、今日もイチャイチャしながらお遣いに出かける。
と言っても、キシに完全に依存しているレイが一方的にくっついているだけだが……。
しかし、キシは全く嫌ではなく、もはや彼女の頭を撫でて甘やかしているため、結局はイチャイチャしていることには変わりはない。
「ねえキシ」
「ん?」
「最近、近くの国が統合されたって聞いたことある?」
「もちろん聞いたことあるぞ。戦争が起こって、負けた国は勝った国に吸収されたんだよな?」
「そうそう。それに、その国を統治している人が魔族で『魔王』って呼ばれる人らしいよ? しかも、その人は女の人なんだって!」
「ま、魔王かー……」
魔王という言葉に、どこか懐かしさを覚えるキシ。
前世で1人漫画を読んでいた時にあった、魔王が登場する漫画があったのを思い出した。
(魔王って作り話とかじゃなくて、本当にいるんだな……)
と、キシは微笑を浮かべながらそう思った。
「一回でも良いから、行ってみたいなあ……」
レイが無意識に言ってしまったその言葉に、キシはピクリと反応した。
レイとは今までたくさんの体験をしてきたが、隣の国に行ったことがなかった。
ビダヤの面積はそこまで大きくないが、非常に充実した設備が整っているため、わざわざ外に出なくても生活していられるのだ。
「なあレイ、隣の国に行ってみたいとか思ったことあるか?」
「えっ? そ、それは……うん、何回か思ったことあるよ。隣の国ってどんな感じなんだろうって気になってはいたけど……。それがどうしたの?」
「そうか……」
その言葉を聞いた途端、キシはニヤリと怪しげに笑った。
そして、喉をコクっと鳴らした。
それを見たレイは、何か企んでいるのかとすぐに理解する。
「レイ!」
「――――! な、なに!?」
キシはいきなりレイに向かって振り向き、レイの両肩をガシッと掴んだ。
レイはそれに驚き、思わず体をビクッとさせた。
「レイ……。こ、今度さ……その新しく出来た国に行ってみないか? 俺たちは一回もここから出たことがないし、俺も他の国には興味あったからさ……。だから……俺と一緒に旅行しない、か……?」
「――――!」
キシは頬を赤くしながら、レイにそう言った。
「それって……新婚旅行ってこと?」
「――――っ!? ま、まあ……そうだな……」
レイに新婚旅行と言われるとは思っていなかったキシ。
キシは顔を真っ赤にして視線を逸しながら、コクリと頷いた。
「――――うん、行きたい」
レイはキシに近づくと、そっと抱きしめた。
「キシと一緒に、その国に行ってみたい!」
レイは上目遣いで、笑顔でそう答えた。
それを見て、キシはドキッとしてしまうが、気を引き締めた。
「分かった。じゃあ、来週の週初めに出発しよう。それで良いか?」
「うん! 嬉しいな」
「えっ?」
「だって、キシと2人で遠方に行くなんて初めてだし、それに……新婚旅行っていうのが嬉しくて……」
「――――可愛すぎる……」
「ふぇ……!?」
キシの胸元で顔を赤くしながら視線を逸らすのを見て、キシは両手で顔を覆い、思わず心の声を口にしてしまった。
勿論レイはそれを聞いて、さらに顔を赤くした。
(あ、またあの2人だ)
(また人前でいちゃついてる)
(ちっ!)
そんな2人を見かけた通りすがりの人達は、リア充爆発しろとでも言うように、イライラしながら2人の横を通り過ぎていったのだった。
◇◇◇
「旅行に行く?」
「ああ、さっき2人でそう決めてな」
「Oh! 新婚旅行っていうやつね!」
「あんま大声で言わないでくれ、ラン……」
キシとレイが旅行をする計画を立てていることを聞いてニヤニヤしているヒカル、眼をキラキラさせて期待しているラン。
この2人も恋人同士であり、キシの幼馴染同士でもある。
ただキシとレイとは違い、ヒカルとランは控えめで道の真ん中で堂々とイチャつくことは絶対にしない、大人らしいカップルだ。
「俺たちは忙しいから、2人で行ってくると良いよ」
「Yes わたしたちは料理を振る舞ったり、お掃除しなきゃいけないから、なかなか時間が取れないの。だから、わたしたちのことは気にしないで行ってきたら良いよ」
ヒカルとランは、キシとレイに微笑みながらそう言った。
「そうか……分かった。何か悪いな。俺たちだけこんなにダラダラしちゃってる感じで……」
「良いんだ。忙しいけど、ランとデートは良くしているから。でも、本当は旅行に連れていきたいんだけどね……」
ヒカルは申し訳無さそうな顔をしながらランを見た。
それに気づいたランはヒカルの方に体を向けると、彼の頬に手を添えて見つめた。
「わたしは大丈夫よ。ヒカルとこうやって一緒に入られることだけで、わたしは幸せ、happyよ!」
「ラン……」
お互い見つめ合い、ちょっとだけ甘い空気が4人の周りに漂い始めた。
キシは幻覚でひらひらと周りを飛び交う蝶を追い払った。
すると、レイはキシを優しく抱きしめた。
「レ、レイ?」
「ヒカルとランちゃんがイチャイチャしているところを見てたら、わたしもキシに甘えたくなっちゃって……」
「何だそれ……。まあ、気持ちは分からなくもないけど」
そう言って、キシは抱きしめてくるレイの頭を優しく撫でた。
んーと言いながら、レイは嬉しそうな顔をした。
部屋に戻ったら、レイを甘やかしまくろうと決めたキシなのであった。
しかし、これ以上公衆の場でこの状態になるのは流石にヤバいと感じたキシは、大きく咳払いをした。
「ん”ん”! とりあえず、詳しい時間は決めてないけど、来週の初めにレイと一緒に旅行することになったということだけ伝えたかっただけだ」
「分かった。完全に決まったら俺たちにも教えてね。アースィマさんとオーウェルさんにも伝えておくよ」
「おうサンキュー。じゃあまた後でな」
少しばかりの別れを告げた後、2人は2階へ上がりレイの部屋へ。
帰ってきたらまずすること、それはどちらかの部屋へ集合し、2人きりでとにかくイチャつくことだ。
どこまでイチャつけば気が済むんだと思うだろうが、2人にとってはこれが普通。
そのくらい、お互いのことが好きで好きでたまらないのだ。
「キシ……大好きぃ」
「俺も好きだ。レイ……」
甘えた声で、物欲しそうな顔でキシを誘うレイ。
それに応えるように、キシも彼女の名前を口にして見つめた。
そして、お互い顔を近づけてキスをした。
目を瞑って、お互いの想いを確かめ合い、唾液が絡まり合う音が2人を中心に響いている。
「ん……はあ、はあ……。キシ……大好き」
「レイ……もうめっちゃ可愛い……」
レイに覆いかぶさり、顔を近づけながらそう言ったキシ。
それを聞いたレイは心臓がきゅうんとなり、キシのことがどんどん好きになっていく。
お互い結婚しているのに、2人はまるで、まだイチャイチャしまくる恋人のようだ。
レイの想いはますます大きくなり、またキスをする。
「はあ、はあ……レイが可愛すぎて、俺がどうかしてしまいそうだ」
「別にどうなっても良いよ? だって……わたしはキシの、お、お嫁さんだから……」
「――――! レイ……」
「キシ……」
キシはレイに覆いかぶさって抱きしめた。
レイも彼の体に腕を回し、自分の体に密着させる。
読者の皆さん、この先からはあれを期待してるでしょうが、特に何もないのでご安心を。
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