第46話 契り2

 翌朝……。

太陽が部屋の中を照らし、暖かくしてくれる。

それに気づいてムクリと体を起こし目を擦る紫色の髪を持つ女性、レイだ。

まだ半分寝ているようで目を擦ってもまだ正面を見つめていた。

 ぽやっとまた寝ようとする瞼を何とか開けようとしていると、レイは大きなあくびをした。

両腕を上げながら背伸びをすると、体の前にかかっていた布団がほろりと落ちた。

何だろうと思い、レイはそのところを見ると、自分の上半身が露わになっていた。

勿論、服も下着も着ていないので本来隠すべき箇所が全部見えている。


「――――っ!?」


 レイは慌てて落ちた布団を手に取り、自分の体を隠した。

顔を真っ赤にし、顔を布団に埋めてあまりの恥ずかしさに唸る。

足をバタバタさせていたが、やがて足を止めると、レイは目元だけ布団から出した。

 横を見ると、そこにはレイと同じ、裸の状態で気持ち良さそうに寝ていたキシがいた。


(――――本当に昨日の夜、キシと繋がっちゃったんだ……)


 レイは股の違和感を感じながらそう思った。

双方とも気持ちが抑えることが出来ず、2人は何回も行為に及んだ。

最初はキシがリードしていたものの、後半からはレイが主導権を握っていた。

レイが自らキシの上に跨って上下に動いたりなど、かなり積極的になっていた。


「――――ふふっ」


 レイは何か企みを思いついたらしく、すやすやと口端から涎を垂らしながら寝ているキシに近づく。

レイは手を伸ばすと、人差し指でキシの頬を優しく押した。


「――――」


 キシの頬は意外にも柔らかい。

目付きが悪い顔をしているのに反して、彼はかなり綺麗な肌をしていたのだ。

 柔らかく心地よかったので、レイはしばらくの間ふにふにとキシの頬を突いていたが、やがて今度は横に投げ出された腕に眼が行く。

 男性にしては細い腕の先に伸びる、繊細な指がレイの眼に映った。

レイはキシの指を握った。

彼の手には何度も触れているし、至近距離で見たこともあるが、4年振りにそれを見るとまた違った感想が出てくる。


(すごい細くて長い指……。何でもこなせそうな繊細な指をしてる……)


 キシの手は掌が大きく、指は細くて長い。

一般的な男性の太くて強そうな造りではなかった。

細かい作業に向いてそうな繊細な指で、女性から見れば羨ましく思ってしまうようなほど綺麗だ。

 レイはそんな彼の手を触れると、指を絡ませた。

キシの体温が、指と指の間からレイに直接伝わってくる。


「――――えへへ……。キシ大好き……」


 嬉しさに思わずにへらっと微笑んだあと、レイは目を瞑ると眠っているキシの耳元でそう囁いた。

何回でも彼に言いたい、もっと彼に自分の気持ちを伝えたい……。

心から彼が大好きで、愛していて……もっと、もっと彼の傍に居たい。

 そんな彼に対する自分の想いを心で伝えていた時だった。

キシは突然レイに手を伸ばし、彼女を抱きしめてきたのだ。


「――――!?」


「残念、さっきからずっと起きてましたぁ」


「キ、キシ!?」


 キシはレイの方向へ体の向きを変えると、レイを見つめた。

彼の眼にレイの綺麗な紫色の瞳が映る。


「ず、ずっと起きてたの? もしかしてさっき言ったことも……」


「全部聞こえてた」


「――――っ! もう、キシのバカ!」


 レイは顔を赤くして、キシをポカポカと叩いた。

しかし、ただキシの体に手を当てているだけなので痛くはない。

そんな姿を見て、キシは彼女のことを可愛いと思っていた。


「ごめんごめん。レイが起きた気配がしたからさ」


「キシも起きればよかったのに……」


「そうしても良かったけど、まだ俺が寝てたらレイは俺にどんなことしてくるのかなって気になったんだ」


「やっぱりわたしをからかっただけじゃん!」


「痛い痛い! ごめんってレイ!」


 レイはさきほどよりさらに強い力でキシをボカボカと叩いた。

流石に痛かったようで、キシは顔を歪めた。

レイはキシを叩くのをやめると、はあはあ……と肩で息をした。

思ったよりも体力を使ってしまったようだ。


「はあ、はあ……」


「――――あっははは……!」


「な、何!? 急に笑いだして……」


「いやいや……。レイってやっぱ面白いなって! ははは……! クックック……」


「――――!?」


 キシは腹の底から笑い、あまりにも笑ったせいで目の端から涙が滲み出る。

腹を抱えて笑いながら涙を指で拭き取ると、


「やっぱレイはこうじゃなきゃな」


「ど、どういうこと?」


「レイはこんなふうに、いつも元気いっぱいに一日を過ごしてくれたほうが似合うなって。そしたらみんなもレイにつられて楽しく過ごせるからな」


「――――!」


 キシのこの言葉は、レイの心に強く突き刺さった。

キシの言う通り、レイが笑って元気いっぱいに一日を過ごすと、キシに限らずアースィマたちも楽しく暮らしていける。


「レイはみんなにとって大きな存在で、ヒロインなんだ」


「わたしがみんなの……ヒロイン……。そうなの……?」


「ああ、そうだ」


 レイは目を大きく見開くと、自分の胸に手を当てた。

思い起こしてみれば、キシがいない間レイは気持ちが沈んで元気がない状態だった。

その時のアースィマやオーウェル、ヒカル、ランもレイと同じような表情をしていた。

 この時レイは初めて、自分がいかに周りを動かす影響力があるかということを自覚した。


「――――キシってやっぱりすごい人。だからわたしはキシに惚れてしまったのかもね」


「そ、そうか? 俺はただ普通のことを言っただけで……」


「だからそういうところキシ」


「―――――!?」


 レイはキシに惚れぼれしたような顔をしながら、彼にキスをした。

キシは驚いた表情を見せるが、すぐに目を瞑った。

舌が絡み合う音が、2人の間に鳴り響く。

そして2人とも離れたくないようで、長い時間ずっとこの状態だった。


「――――ぷはっ! はあ、はあ……」


 レイは息を切らして肩で息をしているが、その吐息がキシにとっては色気がある吐息にしか聞こえなかった。

彼はレイの顔を見ることが恥ずかしくなり、頬を赤くしながら視線をそらした。

 そんな彼の表情を見て、ふふっと笑うレイ。

いつもはカッコいいのに、この時のみレイにとっては可愛く見えてしまうのだった。

だから、余計積極的になってしまう。


「ねえキシ。もう一回しよ?」


「えっ、朝っぱらから……?それに体大丈夫なのか?」


「まだちょっと違和感あるけど、でもわたし今そういう気分なの」


「――――そうかわかった。おいでレイ……」


 レイはキシの覆いかぶられると、キシとまたキシをする。

そしてキシの息子さんはレイの秘境へと侵入した。

今回は痛みもなく、ただ快感だけが体に伝わった。


「あっ! んっ! キシ、すごく気持ちいい……あん!」


「――――っ! 俺も気持ちいいよレイ! そろそろ出そう……」


「良いよキシ! あっ!」


「い、いくぞ!」


「――――っ!」


 レイは体を震わせて肩で息をしている。

それはキシも同じで、大量の汗をかきながらレイを見つめている。


「――――好きだレイ。これからも俺はレイを守っていくよ」


「わたしも好き! キシの傍にずっと居たいくらいに……」


 自分の想いをお互い交わしあったあと、2人はキスをする。

そして顔を離すと、2人は微笑んだのだった。

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