第39話 最凶と対決2
キシは今度はレイからの攻撃を待たずに、自ら攻撃を仕掛けた。
またもやキシが見たこともない印を結ぶと、レイの周りに黒いモヤが出始める。
そしてそれが凝縮されていき、小さな玉のような形に変化した。
キシはそれを見て呪いの一種だと考えた。
レイはその呪いをキシに向かって放つと、ものすごい勢いでキシに向かって来る。
キシは軽々とそれを避けたが、その間にレイはキシの目の前まで迫っている。
「――――」
レイは何かを唱え始めた。
小声のため何を言っているのかはわからないが、キシは何とか振り切ろうと空中で体制を変え、レイに一発喰らわそうとするが、
キンッ!
「なっ……これは結界!?」
「――――!」
キシの拳はレイの周りに張られた結界によって弾き返され、その間に詠唱を終わらせたレイはキシの胸あたりを掌でポンッと軽く押すと、キシは見えないスピードで後ろへ飛ばされていった。
ガラガラ……
「ごほ、ごほ……っ!」
通りの突き当りに崩れずに残っていた建物に強く当たり、瓦礫が落ちてくる。
口から血が流れ始め、体を強打したことでキシの視界が揺れる。
しかし、顔を見上げると目の前にはもうレイが迫っていた。
「――――!」
キシのことなどお構いなしにもう一発キシに向かって拳が飛んでくる。
キシは即座に回避したものの、建物が崩れ、キシは瓦礫の下敷きになってしまった。
「――――面倒くさい人間だね。さっさと降参すれば良いのに」
レイはなかなか倒せない相手に苛立ち始めていた。
すると瓦礫は弾き飛ばされ、中から土埃に塗れたキシが現れた。
「俺は1歩も退かないぞ。レイを助け出すまでは……!」
「はあ……もう面倒くさい」
レイは突然声のトーンが低くなった。
キシの体に重いものが降りかかってきた。
何か嫌な予感がする、そう彼は感じた。
パチンッ!
レイは右手を空に向かって上げると、指を鳴らした。
静寂な夜にこだました。
ドックン
「かはっ……!」
するとキシは突然心左胸を握りしめた。
またあの時と同じように呪いをかけられてしまったのだ。
あまりの痛さと苦しさに立つことも難しくなり、キシはその場にうずくまってしまった。
「あは! すごいでしょ? これで君はあっという間に楽になれるよ!」
「ぐっ……」
楽になれる――――死ぬというレイの言葉通り、キシの体はどんどん蝕んでいく。
前回キシが浴びた『アイ・スティアード』よりも比べ物にならないくらい強い呪いだ。
キシの口からどんどんと血が流れ出て行き、体が震えていた。
「じゃああそこの人間たちのところに行こうかな。でもその前に……」
レイは意識が虚ろになりつつあるキシの顔を覗き込んだ。
そしてニヤリと笑うと、キシの耳元で囁いた。
「じゃあね青鬼の力を使える人間さん。わたしには結局勝てないのわかったでしょ?」
そう言ってレイは立ち上がると、アースィマたちがいる方へと向かった。
もう視界がぼやけ始めているキシは、
「――――くそ、早く……行かない、と……」
と言いながらも、もう限界を迎えてしまったキシはその場にバタリと倒れてしまった。
◇◇◇
ビダヤを見守っているアースィマたち。
そこにシュンという音と同時に突然人が現れたことによって、周りはざわついた。
和服のような見た目にミニスカートの少女だった。
それを見たみんなはすぐにレイだとわかったが、いつもと様子が違うことに気付いた。
「レ、レイちゃん?」
そんな中、アースィマはその少女の名前を恐る恐る言った。
それに反応するようにレイはゆっくりと顔を上げると、アースィマがいつも見ているレイとは全く違う姿だった。
レイはアースィマたちを見ると、ニヤリと口角を上げた。
「あは! いっぱい人間いる!」
「レ、レイちゃん何言ってるの……?」
「もう、わたしの名前は影山零伊香だって言ってるのに……。人間って本当に頭が悪い馬鹿な生き物だよね。わたし、そういうの一番嫌いだから」
そう言ってレイは突然アースィマたちの方へと向かって行った。
もうアースィマのところまで迫っている。
彼女は顔を青くして悲鳴を上げた。
「くっ……」
「――――!」
オーウェルはレイの攻撃をなんとか防ぐことが出来た。
アースィマはあまりの恐怖に脚が竦んでしまって立ち上がれない。
「ヒカル、ラン」
「「――――!」」
「みんなを引き連れて避難させろ! ここは俺が引き受ける!」
「――――わかったわ!」
さきに答えたのはランだった。
オーウェルのことは心配だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
ランの指示で、みんなはオーウェルから遠ざかるように避難していった。
「へえ、随分と余裕があるんだね。1人で戦ってわたしに勝てると思ってるの?」
「そんなことはどうでもいい! 眼を覚ませレイちゃん! 今目の前にいる俺が誰だかわかっているのか!?」
オーウェルは必死に問い詰めるが、それを聞いたレイはまたニヤリと笑った。
「わたし人間が嫌いなの。大っ嫌いなの。だから人間は黙ってわたしに殺されれば良い」
「何言ってやがるんだ! 人間だって相手を思いやるっていうものがあるだろ!」
「あはっ、笑わせてくれるね。あれだけわたしのことをひどい扱いしてきた人間が思いやりあるって……。おかしくて仕方ないよ!」
レイは怪しげな笑い声を上げると、オーウェルの防御を跳ね除け、彼の体に触れた。
「なっ……ぐはっ!」
オーウェルはものすごい勢いで後方へ飛ばされていった。
そのまま地面に叩きつけられ、オーウェルはゴロゴロと地面に転がる。
「へー、あなたも結構頑張るじゃん」
レイはオーウェルの元に一瞬で着くと、彼を見下ろす。
オーウェルはもう恐怖でしかなかった。
元から強いのに、これ以上強くなられたらもう対処の為所がない。
絶望……その言葉が正しいくらいオーウェルはレイに追い詰められた。
「まずはあなたから楽にしてあげる。記念すべき第一号だから喜べるね!」
「な、何を言ってやがる……。俺を殺すっていうのか!?」
「勿論! じゃなきゃわたしの目的は果たされないからね」
「じゃあ俺がそれを阻止してやるよ」
「「――――!」」
突然レイの後ろから声がした。
オーウェルとレイはその方へ見ると、そこには口から血が流れ出ており、虚ろな眼でレイの肩を掴むキシがそこにいた。
「キシ!」
「オーウェル、ここは俺に任せろ」
キシはレイの肩を掴んだまま、彼女を後ろへ飛ばした。
レイは自ら後ろへ飛んで回避する。
キシはふらっとよろめきながらも、レイが遠くに着地するところへと体を向けた。
「キシ、お前……」
「いいから早くここから離れろ。これは俺にしか対処できないんだ……ゲホッゲホッ!」
キシは話し終わったと同時にむせ返り、口から大量の血が流れ出す。
何とか意識を取り戻して急いでここまでたどり着いたものの、時間が経つごとに体をどんどん蝕んでいくこの呪いで、キシの体はすでに限界を超え始めていた。
多量出血で、意識が朦朧として視界もほとんど霞んで見えない状態。
キシの眼の輝きは完全に失ってしまっている。
それでも、レイを何とかしないといけないという使命感は消えずにいる。
こうなってしまった以上、言うことを聞かないとわかっているオーウェルは、
「わかった。あとはお前に任せたぞ」
と言ってキシの肩にポンッと軽く手で叩くと、オーウェルはアースィマが避難していった方へと向かっていった。
しかし、本心はこんなことをしたくなかった。
あんな状態になってしまっている以上もうキシの命は長くないと、オーウェルはわかっている。
でも、今の彼はそんなことは関係ない。
自分の命が尽きるまで必死に戦っているところを邪魔したくなかった。
「くそっ、くそおおおおお!!」
オーウェルは涙を流しながらそう叫んだ。
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