第36話 服選び
月食まであと5日になった。
今日はレイの除霊依頼がある。
そのため、キシは暇を持て余していた。
「さて、どうしようか……。特に見たいものがあるわけじゃないし、欲しいものもないしなあ……。別にギルドの依頼を受けたい気にならないしなあ。うーん……よし、じゃあ寝るか」
キシはそのままベットの上に乗り、布団を自分にかけて寝についた。
(――――って、寝れるわけないじゃん! さっき起きたばっかだし!)
ガバっと起きてそう思ったキシ。
これで本当に暇を潰す手段がなくなってしまったことに気づいてしまったキシ。
夜まで何をしたら良いんだと頭を悩ませていると、ドアからノックする音が聞こえた。
「はーい」
「あ、キシ。わたしだよ」
キシがドアを開けると、そこにはレイがいた。
「おう、おそようだなレイ」
「お、おそよう?」
「ごめん何でもない……。それより、なにか用か?」
「あ、あのね! 今日どうしても自分の服を買いたくて……。お買い物に付き合ってくれないかな……?」
上目遣いで聞いてくるレイに、思わずドキッとするキシ。
そんな状態で断れることが出来るわけないキシは、
「おう、良いぜ!」
と、何故かかっこつけながらグッドサインをレイに見せた。
対するレイはドン引いてしまったのだった。
◇◇◇
ということで、キシとレイはとある服屋に訪れた。
どう見てもレディース専門の店しか見えない。
「もしかして、俺もこの中入らなきゃだめなのか?」
「えっ、入らないの?」
「いや、だってさあ……」
こんな店に男が入ってもいいのだろうかと思い留まっているキシ。
しかしレイは、
「大丈夫だよ、もし何か言われたらお兄さんだって言っておけばいいよ」
と、済ましたような感じでキシに言うと、レイはキシの服の袖を引っ張り、店の中へと引きずり込んだ。
キシはため息をつきながらも、レイの頼みは聞いてあげたいと思っている以上はこれくらい我慢するしかないと、意を決して店の中に入ることにした。
そして中にはいると、驚くべきものばかりだった。
「はあ!? これ、全部日本にあったやつばかりじゃないか……」
「ん? キシも知ってるの? このお店はね、最近有名になっているんだよ」
「へ、へー……」
キシの顔が引きつるのも無理のない話である。
なぜなら、販売している衣服全てが、若い日本人女性が着ているようなものだからだ。
レイはそんなことは知っているはずもないので楽しそうに見て回っているが、キシからしたら驚きでしかなく、そのまま立ち尽くしてしまっていた。
「いらっしゃい! おや、随分若いお客さんが来たね。何か気になるものがあったら、そこに試着室があるから試してみてね!」
「はい、ありがとうございます!」
(あの人、顔立ちからして絶対日本人だっただろうな)
レイに話しかけてきた男性はこの店の店長であるが、どう見ても日本人の顔立ちをしている。
確信したキシは店長のところに歩み寄った。
「あのー、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「はい?」
キシは店長に詰め寄ると、レイに聞こえないよう小声で店長に話す。
「あなた、日本人ですよね?」
「――――!? な、なぜそれを知って……」
やっぱりと思ったキシはさらに続けた。
「実は俺も日本人で転生した者なんですよ。それでお願いがあるんですが……」
キシは何やらコソコソと店長に話し始めた。
その話を聞いた店長は眼を見開くと、こくこくと頷いた。
「わかりました、只今お持ちしますね!」
店長は楽しそうに眼をキラリとさせ、怪しそうな笑い顔を見せると、スタッフルームへと入っていった。
キシはニヤニヤしながら、うーんと唸りながら衣服を選んでいるレイのもとへ歩み寄った。
「なんか良いもの見つかったか?」
「うーん……まだ探してるところ」
「なら俺さ、レイが着たら似合ってるんじゃないかなって思うものいくつかあったから、よかったら着てみるか?」
「えっ、本当!? キシが選んだ服なら着てみたい!」
「そうか! 今店長が持ってきてもらうから試着室で待っててくれ」
「うん! わかった!」
レイはウキウキしながら、早速試着室に入っていき、カーテンを閉める。
予想通りの展開になったことにキシはさらにニヤニヤと怪しい顔になっていく。
「お待たせいたしました! こちらになります」
店長はスタッフルームから衣服を何着か持ってきた。
勿論、店長もキシと同様にニヤニヤと怪しい顔をしている。
2人はレイが入っている試着室の前まで来ると、
「レイ、持ってきてくれたみたいだからカーテンの下から渡すぞ」
「うん! 覗いたりしないでね?」
「するか!」
店長から1着もらうと、キシはカーテンの下からそれをレイに手渡した。
レイは楽しそうに鼻歌を歌いながら着替え始めた。
「これを着るとレイがどうなるのか楽しみですね……」
「そうですね、わたくしも楽しみです……」
「「ふへへへ……」」
2人は小声で話しながら怪しい笑い声をした。
周りからしたら、変態にしか見えないやばい人である。
1分くらい経って、レイは着替え終わった。
鏡を見たレイは少し戸惑いを見せた。
「どうだ? サイズは丁度いいか?」
「良いけど……これ本当にこれでいいの?」
そう言いながら、レイはゆっくりとカーテンを開けた。
レイの姿に、キシと店長はおー……、と感嘆の声を漏らす。
1着目はセーラー服。
モノクロで、1番定番のデザインになっているものである。
「これは……」
「本当に学校にいたら男性はイチコロですね……!」
夏服仕様のため、半袖になっている袖口から色白の細い腕が伸びている。
そして、スカートは今流行りの膝から上になっているミニスカート仕様。
そのため、スカートからスラッと伸びる細い足が見えるようになり、レイのスタイルの良さが際立って見えるのだ。
「ど、どうかな?」
「めっちゃ似合ってるよレイ! 最高すぎるよ!」
「はい! わたくしも同じです!」
興奮している2人は、ビシィ! とレイにグッドサインを突きつけた。
レイは恥ずかしいせいでもじもじとしているが、その仕草も2人の心に突き刺さり、どんどんヒートアップしていく。
「じゃ、じゃあ次これ着てみてくれ!」
「えっ、うんわかった……」
レイはキシから差し出されたもうひとつの衣服を手に取り、カーテンを閉めて着替え始める。
「やばいですね、彼女はコスプレの才能があるかもしれませんね」
「やっぱりそう思いますよね! 色々着せて試したくなってきますよね!」
またコソコソと小声で話しながら盛り上がっている2人。
次は何を着させようかと、さらに服選びに拍車がかかる。
「着替え終わったよ……」
レイはゆっくりとカーテンを開けると、今度はメイド服に猫耳カチューシャを付けた姿で登場した。
それを見た2人は言葉を失ってしまった。
あまりにも似合いすぎているせいで、非常に感激してしまったのだ。
「ねえ、2人ともどうしちゃったの? これすごく恥ずかしいんだけど……」
レイの声にピクリと反応するキシと店長。
するとキシはゆっくりと口を開き、1つレイに注文してみることにした。
「――――なあレイ、胸くらいのところで手でハート型作って、もえもえギューって言ってみて?」
「え、何? もえ?」
「こんな感じにしてハート作って、もえもえギューってやるんだ。可愛くお願いします!」
キシはレイに動きの見本を見せた。
レイはよくわからないまま手でハートを作ると、頬を少し赤らめながらキシから注文されたセリフを言った。
「も、もえもえギュー……」
「「――――グホゥ!」」
キシと店長は限界を超えてしまい、鼻から大量の血を出して仰向けに倒れてしまった。
2人は合唱して、凛々しい顔をしていた。
「もう! わたしを使って遊んで……キシの意地悪!」
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