三章 〜少女の過去〜
第34話 依頼を受ける3人
異世界の代名詞になっている冒険者という職業。
そんな冒険者たちが集まる大都会ビダヤは、今日も通りには沢山の人達が行き交っている。
そんな中、ビダヤの領地から外れた荒野で、今まさにモンスターと戦っている者がいる。
「よいしょっとぉ!」
ドゴォンという巨大な音が鳴り響くと同時に、モンスターは散り散りになって飛んでいく。
しかし、後ろにはどんどん様々な種類のモンスターがわらわらと湧いてくる。
「なんだよこんなの聞いてねえよ……。理不尽なRPGの戦闘シーンかこれ……」
いくらモンスターを倒しても、その分、いやそれ以上の量のモンスターが増えていくことに呆れてしまい、額に青筋を立てている、目付きが悪い1人の少年。
不慮の事故で命を落とし、突然赤ん坊から異世界転生という異世界漫画のような経歴を持っている青髪・青眼の18歳の少年。
周りからはキシという名前で呼ばれているが、本当の名前は
「はあ……これじゃあ1日経っても終わらんぞ……。おーい! そっちはどうだ?」
「だめだ! 一向に終わる気配がしねえ!」
キシの後ろでモンスターと戦闘を繰り広げているのが、筋肉質でガタイが良い体を持つ、高身長の男。
キシと同じ冒険者で、いつもキシと同じペアを組んでいる。
その男の名前はエル・オーウェル。
この世界は日本と同じく最初は名字、次に名前になるため、彼はオーウェルと呼ばれている。
彼はビダヤの冒険者の中でもかなりの実力者。
冒険者ランクもAランクと、最高ランクSの次に来る上位ランクに属している。
そんなオーウェルだが、これほどまとまってモンスターを相手にするのは初めて。
Aランクの彼でも、相手が多すぎると駆除するのも難しくなる。
「くそっ、なんでこんな依頼受けたんだよ!」
「
「ぐぬっ……!」
オーウェルにダメ出しを食らって小さくなるキシ。
掲示板に記載されている依頼を見た瞬間、眼を輝かせてこんな大変な依頼を受けたのはキシ本人である。
「だー! ウザったすぎる! お前らのウザさで溜まった鬱憤をここで晴らしてやんよお!」
どんどん増えるモンスターにだんだんとイライラを募らせていたキシは遂に堪えきれなくなった。
キシの額から鈍い青色の角が生え始め、ストレス解消にモンスターをどんどん殴っていく。
そう、キシは青鬼の能力を持っているのだ。
キシが通っていったところにはモンスターの死骸の道が伸びていく。
「ぎゃははは! めっちゃ楽しいぃぃ!」
「――――なんであいつはモンスター相手になると戦闘狂と化すのか良くわからんな……。あーもううんざりだ! レイちゃんよ、後は頼んだぜ!」
「うん!」
オーウェルのすぐ横でモンスターと乱闘を繰り広げているもうひとりの人物。
この世界では一際異彩を放つ、紫色の髪・眼を持っている少女。
彼女はゆっくりと手を伸ばすと、周りに光が集まり始める。
「キシ、そろそろ離れろ! 来るぞ!」
「――――! やっぱフィニッシュはレイか。今度こそは決めたかったのに!」
「負け惜しみはいいから早く離れろ!」
「へーい……」
キシはいじけながらもその場から離れた。
オーウェルもモンスターを倒しながらレイから離れる。
そしてモンスターの群れの輪から抜け出すと、オーウェルとキシは少女の方へ振り向いた。
「「頼んだぞ!」」
「行くよ!『ムスタンカ』!」
少女の魔法詠唱によって、モンスターたちの足元が底なし沼と化し、どんどん沈んでいく。
1分もすれば、大量にいたモンスターは1匹もいなくなってしまった。
「ははは……。こりゃあ誰も敵わないな。な、元最強さん?」
「お、俺は認めてねえよ!?」
オーウェルはキシの心に刺さる鋭い矢を放ち、キシは動揺を隠せないでいる。
本人は強がっているつもりだが、周りから見ると眼が揺れ動いているのがあからさまに分かるくらいだ。
「とにかく、今日の依頼はこれで終わりだな!」
「うん! みんなお疲れさまです」
「だな。さて、ギルドに戻って報酬もらって帰るとするか。おーい、そんなこと気にしてねえで戻るぞ」
「――――わかった……」
キシはさきほどオーウェルに言われたことをまだ気にしてるようで、ブツブツと独り言を言いながら、渋々ギルドへととぼとぼ歩き始めた。
「キシ大丈夫?」
「何ともないから大丈夫だ、気にしないでくれ……」
「レイちゃん、こいつを心配する必要はないぞ? ただメンタルが弱すぎるだけだからな。がははは……!」
「またキシのこといじめたの!? もう、キシだってわたしと同じくらい強いんだからね?」
「悪い悪い、そうだよな。レイちゃんには負けるが、ギルドの中ではレイちゃんに次いで2番目に強いもんなキシは」
「なんか惨めな気持ちになるからやめてくれ……」
「あはは……」
キシの落ち込む様子に思わず苦笑する紫色の髪・眼を持つ少女。
12歳というギルドの中でも最年少ながら、冒険者カードのステータスはすべての項目でSランクがついている最強の少女。
普段は除霊魔法という世にも珍しい魔法を使い、霊魂によって起こる怪奇現象を駆除するという依頼も受け持っている。
この少女の名前はレイ。
今ビダヤの中で大注目され、アイドル的存在になっている。
いつの間にか、親衛隊らしきものも結成されているという。
「いらっしゃいませ。あらキシさんお疲れさまです」
「あ、どうも。依頼終わったんでそれの報告しに来ました」
「では、冒険者カードをこちらにかざしてもらってもいいですか?」
キシは受付嬢に言われた通りに、横にある読み取り機に自分の冒険者カードをかざした。
パーティーを組んだ場合、依頼終了の報告はそのリーダーがやることになっている。
キシはいつもリーダーを任されているため、毎回この作業を行っている。
そしてキシの目の前にいる受付嬢。
彼女の名前はアニータといい、ふくよかな雰囲気を持つ優しそうな女性で、このギルドの中でもベテランである。
元々はキシたちと同じ冒険者で、全盛期の頃はがむしゃらのように依頼をこなしまくっていた。
見た目に反してかなり危なっかしい冒険者だったらしく、なんでも突っ込んでいくタイプだったが、見た目と実力によってすぐに名声を上げ、あっという間にAランクまで成り上がった実力者である。
現在はこうして受付嬢となり、結婚もして2児の母になっている。
「はい、確認できました。大変じゃなかったですか?」
「大変でしたよ……。大量のモンスターに囲まれてしまって……」
「まあ……それは大変でしたね。今日はゆっくり休んで、またいらしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
キシはアニータから報酬金をもらうと、オーウェルとレイのもとへ歩いていった。
2人のもとにたどり着くと、キシの予想通りの状態になっていた。
「またか……」
「おおーいキシ! なんとかしてくれよ!」
レイの姿を一目見ようと、冒険者たちがレイを取り囲んでいる。
オーウェルはそれに巻き込まれ、もみくちゃにされている。
「はあ……。おーいレイ!」
「――――! 終わったの?」
キシの声がレイの耳に届くと、レイは周りにいる人だかりをかき分けながらキシのところへ駆け寄っていく。
「ああ、早く帰ってディアスさんのところに行こうぜ」
「うん!」
「あれ、オーウェルも一緒に行かないのか?」
「すまんな、今日別の仲間と一緒にまた依頼受けなきゃいけないんだ」
「また!? 疲れてないのかよ?」
「大丈夫だ。次のは楽しくやりながら出来るやつだからよ。キシはレイちゃんと仲良く帰りな!」
「バカ野郎! 何回も言ってるけど俺とレイはそんな関係じゃねえからな!」
オーウェルはキシに向かってグッドサインを突き出し、歯をキラリとさせる。
そして、がははと笑いながらその場を立ち去っていった。
キシは唸りながらオーウェルの後ろ姿にガンを飛ばした。
「キシ、早く帰ろう?」
レイはキシの服の袖をクイッと少し引っ張った。
キシは小さくため息を着くと、
「そうだな、早く帰ってゆっくり休むか」
と、レイに微笑みながら言った。
レイがほんのりと頬を赤く染めながら、ふふっと小さく嬉しそうに笑っていることも知らずに。
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