第28話 老夫婦の依頼

 顔を青ざめるキシ。

レイは見方が分からないため首を傾げている。


「わ、わたくしにも見せてくれませんか?」


 キシは手を震わせながら受付嬢にレイの冒険者カードを渡す。


「なっ!? こ、これは……」


 レイの冒険者カードを見た受付嬢は、目を大きく見開いた。

もちろん、キシと同じように手が震えている。


「ステータスが……全部Sランク……。属性測定不能、ですって……?」


 キシの隣にいたベテラン冒険者がそれを聞いて、手に持っていたものを全部落としてしまった。

もちろん、その相手をしていた受付嬢も。


「ねぇ、みんなしてどうしたの?」


「「はっ……!」」


 状況が飲み込めずにいるレイは、キシと受付嬢を交互に見ながら焦りを感じていた。

 レイの声に2人とも我に帰り咳払いをした。


「えー……結果を報告します」


「えっ、なんで急に敬語?」


「これがレイさんの冒険者カードです」


 そう言って受付嬢はレイに冒険者カードを渡した。

レイは冒険者カードを手に取ると、じっと眺める。


「全部の項目にSがついてる?」


「レイ、あのな……」


 キシはレイの肩に手を置くと、


「レイはこのギルドで1番強い冒険者になった」


「えっ?」


「そうですね。もう敵無しと言っていいでしょう」


「えっ? えっ?」


 結局、レイは分からないままだった。





◇◇◇





 ギルドを去り宿舎に戻ると、キシはレイの冒険者カードについて本人に説明した。

Sランクがどれほどのものなのかを。

 その時ちょうどオーウェルがいたため、オーウェルの冒険者カードと比べさせることにした。

 レイの冒険者カードを見てオーウェルは、


「ああぁぁあ!?!?♯♭¥♪☆¥♭♯♪☆★♯♪♭☆★」


 と訳の分からないことを言い放っていた。


「ってことだよ。分かった?」


「オーウェルので凄く良くわかった……」





◇◇◇





 夜になるとライースの打ち合わせ通り、広場で待ち合わせたあと、依頼があった豪邸へと向かった。

 ライースの話では最近ドアが勝手に開いたりするらしい。

毎日眠れない日々が続いているそうだ。


「ここですか?」


「あぁそうだよ」


「お待ちしておりました」


「「「―――――!」」」


 門の前には老夫婦がいた。

この2人が今回の依頼人だ。

 キシは老夫婦に向かって1歩踏み出した。


「状況を聞かせて貰えますか?」


「最近、夜中になると足音が凄くて……。ドアが勝手に開いたりもするんです。もう困っていて……」


「妻は怯えて夜を過ごさなければない。何とかして欲しいんだ」


「分かりました。では、俺の隣にいるこの子に任せてください」


 キシはレイを紹介するとレイはぺこりと頭を下げる。

老夫婦も頭を下げると屋敷の中へと4人を案内する。


「ちゃんと見ておくんだぞ?」


「えぇ、承知しました」


 ライースは同行させている魔法鑑定の女性に再度確認をした。

この女性の名はノラと言って、実はかなりの実績を持っている。

 2年前まで使える者がほとんどいないと言われる回復魔法を使える女性冒険者として、かなり名門のパーティーに所属していた。

 解散した今、ギルドからの推薦で豊富な経験を活かして魔法鑑定部門のトップとして務めている。


「ノラはこの屋敷を見て何か感じるか?」


「何も感じる事は無いことはないですが……」


 2人からしたら何も異変は見当たらない。

ノラは少々何かは感じるものの、完全に分かるほどではなかった。

 ちなみにキシとレイはというと、


「いるなぁ」


「いるね」


 目にハッキリと映り込んでいる黒いオーラ。

正体はまだ突き止めていないが、確実に邪悪なものがあるのはわかっている。


「キシ大分見えるようになったんだね」


「あぁ、これもレイのお陰だな」


「ふぇっ!?」


 キシの不意打ちに変な声を出してしまったレイ。

顔を赤くしながらも探索は続けるが、いつまで持つだろうか……。

 すると、いきなりオーラが強くなり始めた。

老夫婦の寝室の隣の部屋からだ。

扉から真黒い煙のようなオーラが漏れ出ている。


「行くよキシ?」


「ドンと来いだ!」


 レイはドアノブに手をかけるとゆっくりと回す。

ドアを開けるとそこには、少し埃がかった部屋が姿を現す。


「「―――――」」


 2人は慎重に部屋の中に入る。

すぐに分かった。

この真黒いオーラを出している本体が。


「これ、だね」


 それは手のひらサイズのクマのぬいぐるみだった。

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