第25話 頼れ

 レイが落ち着きを取り戻した所で、キシとレイは1階に降りた。


「あぁレイちゃん!」


「ひゃあ!」


 レイを見た瞬間にアースィマは飛びついた。

思わず声をあげてしまったレイだったが、

安心したせいで泣き出した。

その場には温かい空気が流れていた。






◇◇◇






「――――っ! まだ痛むなぁ……」


 あの出来事でキシは身体を痛めていた。

そして、長時間鬼の力を使ったせいで身体が少しだるく感じる。

今日はギルドには行かず、でも何もしないのも暇なので、のんびりとビダヤの街を歩いていた。


「キシー!」


 後ろから自分の名前を呼ばれていることに気がついたキシは、後ろを振り向くと、レイが走って来ていた。


「どうかしたのか?」


「部屋に行ったらキシの姿がなくて、ヒカルとランに聞いたら外行ったって言ってたから」


「そういえば、あいつら同じ宿舎にいたな」


((おい!))


「幼馴染同士なのにその反応なの!?」


「いや……最近登場してこないから」


((ひどい!))


「キシって結構ひどいこと言ったりするんだね」


 レイにジト目で見られ、思わず目を逸らしたキシ。

レイ以外にも聞いたことある声が聞こえたようが気がしたが、そこは放っておく。


「――――あの時はごめんね」


 その言葉にピクリと反応するキシ。

レイはあの時の出来事をまだ引きずっていた。


「まだ気にしてるのか? 俺は大丈夫だって」


 キシがそう言ってもレイの表情は変わらない。


「キシに助けられてばかりで、わたしは何もしてない。逆に迷惑しかかけてないって思ってた。だからせめてお礼させて! 何でもするから!」


 その言葉を聞いて少し考え込むキシ。

レイにはどこか緊迫した雰囲気があった。


「じゃあレイのお気に入りの場所に連れてって欲しい」


「えっ? い、いいけど……」


 キシは何を考えているのだろうか。

よく分からないまま、レイは大通りの西側へ行った。

ビダヤの西の外れにはビダヤの全貌が見える景色の良い高台があった。

 レイはよくこの場所に訪れていた。


「着いたよ」


 レイはそう言うと、キシは高台の頂上へと登った。

キシの服と青い髪の毛がなびく姿が、レイには見惚れるほどやけにかっこよく見えた。


「ここがレイのお気に入りの場所か――――じゃあもうひとつ俺からレイにして欲しいこと。それは―――」


 レイはゴクリと唾を飲み込んだ。


「自分を責めないことだ」


「――――は?」


 想像と全く異なった答えを出したキシに、思わずレイは戸惑った。


「あのなレイ。前も言ったけどレイはまだ12歳の女の子なんだ。この世界は12歳は大人扱いだけど、これから情緒不安定になりやすい時期になるんだ。あまり自分を責めたりとか抱え込みすぎると、またあの時みたいになるんだぞ?」


 レイは呆気に取られていた。

今まで自分の事など深く考えていなかった。

それに対しキシは人間についてよく理解しており、レイの心情までドンピシャで読んでくる。


「な、なんでわたしの思っていることまで、そんな簡単に分かるの?」


「昔の俺がそうだったからだ」


 キシは振り返らず、ビダヤを見ながら話を続けた。


「レイには内緒にしていたが、実は俺もレイと同じくこの世界の人間ではないんだ」


「―――――!?」


「俺は前世、親から暴力を受けていた。毎日アザを作って学校に登校してた。でも誰にも言わなかった。迷惑かけたくないって思ってたから」


「―――――」


「最初は大丈夫だった。でもそれが長く続いた結果――――俺は何も話さない孤立した人間になってしまった。これは俺が小3の時、8歳の時だ」


「は、8歳!? わ、わたしより幼いのにそんなことがあったの!?」


「そうだ。俺はヒカルとランがいたから良かったけど……レイの場合ならどうだ?」


「―――――」


「気づいていると思うけど、俺みたいに頼れる仲間がいたのなら話は別だ。だけどレイみたいに誰もいなかったら? 頼る手段もなかったら? ただ深く溺れて沈んでいくだけ」

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