第24話 自覚

 キシは隣の部屋の扉の前で立ち止まった。

昨日の戦闘で鬼の力を使いすぎたせいで、頭痛がするが、そんなものは気にしている場合ではない。

 キシはドアノブを握りしめ、ゆっくりと扉を開く。

少し部屋が散らかっている。

 奥へ視線を移すと、そこには窓の前で向こうを見ていた紫髪の少女がいた。

その後ろ姿を見ると、まるで平安時代にいた詩人のようだ。

 キシはレイの傍に歩み寄る。

キシが隣に来ても、レイの視線はそのままだった。


「―――体調は大丈夫か?」


「―――――」


 レイは何かを話そうとして口を一瞬開いたが、暗い顔をし、俯いてしまった。


「何か話したいことがあるんだろ?」


 キシは幼い子に話しかけるように、優しい口調で聞いた。

すると、バッとキシの方を振り向き、そのままキシに抱きついた。

驚いたキシだったが、顔を埋めて鼻を啜っていたレイを見て、優しく頭を撫でてあけた。

 レイは震えた声で言った。


「わたし、少し過去のこと……思い出した」


「そうか! 何がわかった?」


「―――わたしこの世界の人間じゃない」


「――――は?」


 この世界の人間じゃない。

ということは、レイは異世界から来た転生者と言うことになる。


「思い出したの。あの後目が覚めて起きたら急に頭の中に流れ込んできて……」


「ま、まじかよ」


「うん。でね、その思い出した記憶が――」


 それを言おうとすると、レイは身体をブルブルと震え始める。

顔色も悪くなり真っ青だ。

相当酷い記憶を取り戻してしまったのである。

 キシはレイを抱き寄せると、頭をポンポンとしてあげた。


「落ち着いて。今は俺しかいないから。話せる範囲でいい」


「うん……ごめんね」


 レイくらいの年頃の女の子ならこうなってしまうのも仕方がない。

本来なら外で元気よく遊ぶのに対して、レイは記憶がない―――記憶は一部戻ったが残酷なもの―――、仲の良い人がアースィマなどの大人しかいない。

 そんなレイにキシは可哀想で仕方がなかった。

年が1番近いのはキシなので、自分はレイに寄り添ってあげ、手助けをする役目があると改めて自覚したのであった。


「はぁ〜……こうしていると凄く安心する」


「そうなのか?」


「むぅ、キシって凄く鈍感だよね」


「鈍感? 何の話だ?」


「もぅ! もっと乙女心について勉強しなさい!」


「えぇ!?」


 レイに指図され怒られ、訳の分からないキシは大混乱。

そして2人ともぷっと吹き出すと、笑った。


「なあレイ」


「なに?」


「レイには記憶が曖昧なところが多くて、この先何があるのか分からない。

もしかしたら昨日みたいになって俺と対立するかもしれない。

崖っぷちに立たされて、そのまま後ろに下がってしまって、暗闇に落ちてしまってしまうかもしれない。

それでも、俺はレイの近くにいる。

だから、レイがもしそうなったら俺を思い浮かべるといいさ。

俺はレイを守りたいんだ」


「―――――」


 レイの心の中には、何か温かいものが込み上げてくる。

仲のいい人でも、仕事のパートナーとしてでも、どれにも当たらない感情。

そしてレイは胸に手を添えると自覚した。


(あぁ、わたしはやっぱりこの人が好きなんだなぁ)


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