第22話 取り憑かれた少女

「「―――――」」


 キシとレイは草原にやってきた。

そう、キシとレイが初めて出会った場所である。

 しかし、2人の空気はとてつもなく重い。

原因は明確だ。


「なぁレイ、本当に大丈夫なのか?」


「――――」


 一応声をかけてみるものの、やはり曇り顔をしている。

それに答えるかのように、草原に吹く風も強くなり始め、天気も雲行きが怪しくなってきた。


「き、今日はやめておくよ。早く帰ろうぜ」


「――――」


 流石にキシも焦り始めた。

レイは記憶が無い分、何が起こるかわからない。

ここで天変地異のようなことが起こってしまったら―――。

 しかしレイは何も答えない、動かない。

ただ何かに恨みを持つような、鋭い目付きをしている。


「――――す」


「えっ?」


「――――」


 冒頭部分があまりにも小声で聞こえなかったが、キシには見えない何かがいることは分かった。

 レイは何かを目に捕らえたのか、右側を見ている。

そして、そのまま歩き出した。

 キシは警戒をし、距離を置きながらレイのあとを追う。


「ここは―――」


 レイが立ち止まった場所、そこはあの日、レイが一人ぼっちで座っていた池だった。

池の周りには低木がぐるりと、池を囲むように生えているため、キシは低木の茂みからレイの様子を伺う。


(もしかしたらレイの記憶の断片でも見れるかもな)


「そこにいるのは人間か?」


「――――!」


 怪しい低い調子の声。

まさしく初めて何かに取り憑かれたレイの声だった。

 しかし逃げてはダメだ。

キシは心の中でそう言い聞かせていた。

それに、ここにレイを連れてきてしまった責任もあった。


「あは、人間が1人いるのか……」


(み、見えてるの言うのか?)


「醜い―――醜いぞ人間! あはは!」


 そしてキシの方を振り向いた。

キシに緊張が走る。


「殺してやるよ!」


「――――くあ!」


 レイは見えないくらいのスピードで、キシに突っ込んできた。

キシは瞬時に鬼を発動させ、レイの攻撃を止めたものの、衝撃で数メートル吹っ飛んだ。


「ぐっ!」


 冒険者として様々なモンスターと戦ってきたキシだが、レイはそれを遥かに上回っていた。

攻撃の出だしから相手に当たるまでの間が速すぎて殆ど見えない。


「あはは」


 不気味な笑い声とともに、レイは片手をキシに向けると、手の平からどす黒いモヤのようなものが出てきた。


「なっ、あれは闇魔法の……」


 その黒いモヤはキシに向かって凄まじい勢いで飛んでくる。

キシは危うく当たるところだったが、何とかかわすことができた。 


「あっぶねぇ――――っ!」


 そう思ったのもつかの間、そのモヤはかわされたあと、そのままキシの体の中へと入り込んだ。


「ま、マジか―――っおぇ!」


 キシの身体に異常が出始めた。

倦怠感、そして込み上げてきて吐いた真っ赤な血。

 このまま放っておけば、キシは黒いモヤによってどんどん身体が蝕んでいき、確実に死に至る。

 これが闇魔法の1つ『アイ スティアード』である。


「やばい……まともに食らったな」

 

 

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