第16話 謎の者

「真のことを知れば暴走する―――か」


 キシはあれからその言葉が気になっていた。

レイが―――と言っても何者かに取り憑かれた状態だが―――レイのことを言っているのは間違いなかった。

 ということは、その何者かはレイのことを知っているのか?


「ね、ねぇキシ。その……この状況は何?」


「え?」


 レイはキシに膝枕された状態で、キシは無意識にレイの頭を撫でていた。


「あ、ごめん!すぐ退けるから……」


「あ、いや、そのままで、いい、よ?」


「――――!?」


 まさかの不意打ちだった。

読者の皆様に言っておくが、この話は別にタグがラブコメでは無いことをお忘れなく。

ただそうっぽくなってしまっているだけなのだ。


「もしかして、わたしに何かあった?」


「――――」


 レイにそう言われキシは躊躇した。

しかし、レイは本当に知りたそうな顔をしていた。


「――――話して欲しいか?」


 レイは小さく頷く。

キシは一つ小さな溜息をつくと、


「レイは自分の過去を知りたいんだよな?」


「うん」


「―――さっきの夜中、レイは廊下に立っていたんだ」


「えっ?」


「まぁそんな反応をすると思ったよ。

だけど重要なのはこの次だ」


 レイはそう言われ真剣な顔になる。


「レイは何者かに取り憑かれていたんだ。

まぁ、そこまではいつも通りだった。

だけど、今回は違ったんだ」


「今回は違う?」


「そう、そいつは急に話し始めたんだ」


「―――!?」


「そしてそいつはこう言った。

我はレイではない、と。

そしてこう言った。

そのレイとやらの娘の真のことを知れば、その娘は暴走するであろう、とな」


「――――」


 レイの表情が徐々に曇り始める。

真のことを知れば暴走する、という言葉に、キシと同様に引っかかっていた。


「正直、何が暴走するのかは分からない。

だけど過去を知りたいレイにとって、過去を知った時のリスクは大きいと言うことは間違いないと思うんだ」


「――――」


 レイは黙り込んでしまった。

キシの言う通り、レイは過去を知って、本当の自分は何者なのかを探りたい。

しかし、リスクが大きいということに恐怖心を持ってしまっていた。


「でも……たとえレイが暴走するようなことがあっても、俺は何とかして止めてやるよ」


「―――!」


 レイの恐怖心は、キシが放った言葉で一瞬にして吹き飛んだ。

今までは何でも自分で解決しなければならなかった。

 確かにアースィマが近くにいたが、年がだいぶ離れているためか、納得することも出来なかった。

 しかし、今回は違う。

5つしか年が離れていない少年がいる。

そして、その少年は青鬼という強い武器を持ち、レイのことを優先的に解決してくれる。


「――――うぅ」


「え、レイ。泣いてるのか?」


 いい人に出会ったと、心から思うと自然と涙が出てくる。

 レイは鼻を啜りながら、キシに抱きついた。

キシは驚いたが、レイの思いが伝わり、頭を撫でてあげた。

 レイにとって、この時間が一番の至福だった。

 

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