第15話 二度目の豹変

 時刻は深夜2時。

 キシは前世の頃からこの時間にトイレに行くという習性がある。

キシはトイレに行こうとして、ベットから出る。

 しかし、キシの身体は何かに取り憑かれたような感覚に陥る。

そう、レイに異変が起こったあの感覚と全く同じである。

 あの時は身体が鉛のように動かなかったが、2度目となると身体は震えるが、腰が抜けるほど歩けないわけではなかった。


「――――」


 キシは震える身体を何とか堪えながら、扉の前まで来ることが出来た。

そして、キシは手を伸ばし、ドアノブに手をかける。

大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐く。

 そしてキシはゆっくりとドアを開けた。


「――――」


 明かりは全く無く、暗黒な視界が余計に恐怖感を増す。

キシはその恐怖感を必死に堪えようとする。

何も見えないよう、顔を下に向ける。

 長い廊下を歩き、階段を下るとすぐの所にトイレがある。

 3分後、ようやくトイレに入ることが出来た。

ライト、と言っても魔石を使ったものだが、それをつけるとキシは安堵のため息をつく。


「――――」


 用を済ませると、また同じ所を通らなければならない。

先ほどと同じように、下を見ながら歩く。


タッタッタッ……


「――――?」


 キシの耳から何かが聞こえた。

誰かがキシの横を走り抜ける音だ。

 キシは視線を横にずらす。

しかし、そこには誰もいない。


「――――はぁ……」


 緊張感から少し解き放たれ、キシはため息を漏らす。

 しかし、視線を戻した瞬間、何かいることに気づく。

誰かの裸足が視界に入る。


「――――!?」


 キシは視線を動かさないまま、歩くことを止める。

視線を合わせたら、まずいことになる。

そう思ったからだ。


「―――――」


 周りからは音も聞こえない。

無音が逆に、より恐怖感を増幅させる。

キシは必死に耐えていた。

 すると……突然キシの視界に顔が映り込む。


「うわぁぁぁ!!!」


 キシは尻もちをついた。

顔を覗き込んだ者、その正体はレイだった。


「―――――」


 あの時の状況と全く同じである。

何かに取り憑かれたような表情をしている。

 しかし、キシはあの時と違った。

あの時は身体が鉛のように動かない、そして思考停止に陥っていたが、今回は身体は相変わらず動かないものの、思考停止まではいってはいない。


「―――おい、レイ」


 キシは彼女の名前を呼んだ。

しかし、レイは答えない。


「何が目的だ? 何をするつもりだ?」


「――――」


 やはり黙ったままだ。

しかし、キシはレイから視線を逸らさない。

何かが分かるかもしれないと、取り憑かれたような状態のレイに吐かせるためだ。


「―――我はレイではない」


 遂に口を開いた。

いつも聞く明るくハキハキした声ではない。

暗く、低めの、今までレイから聞いたこともないような声だった。


「じゃあ、あんたは誰だ」


「そなたに我の正体など教えるまでもない」


「何故だ?」


「それも話すつもりは無い。ただ―――」


 何かに取り憑かれたレイは一間開けると、


「そなたは今までで一番大変な思いをするだろうな」


「大変な思いをする、だと?」


「レイ、とや、らの娘、が、真、のこ、とを知れ、ば―――」


 レイに取り憑いている者が話す言葉は、どんどん途切れ途切れになっていく。

しかし、キシはその言葉を聞き逃すものかと、耳に集中している。


「―――そ、のむす、め、は……ぼ、うそ、うす、る、であろう」


 そう言ってレイは倒れてしまった。

キシは身体が動けるようになると、レイを背負う。


「―――真のことを知れば暴走する。どういうことだ?」


 結局、答えには辿り着くことが出来ないのであった。


 





 

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