第13話 謝罪

 宿舎へ戻ってきたキシたち。

レイは熟睡している。

そして、キシの目の前には顔をニヤつかせたアースィマ。


「あのー、ディアスさん?」


「大丈夫ですよ!

キシさんがレイちゃんを部屋に連れても、わたくしは何とも思いませんから!」


「だからディアスさん違うんですって!」


「あらあら、満更でも無いんじゃないんですか?」


「会って数日しか会ってないのにそんな漫画みたいな展開になるかー!」




◇◇◇




「あーもう疲れた……」


 キシは浴場にいる。

何とかアースィマを説得することが出来たが、10分もの時間を使ってしまった。

アースィマはそういう事に過敏に反応してしまうらしい。

 キシは呆れてしまい、鼻のところまで湯船に浸かる。


「にしても、結構人多いな」


 この宿舎は料理だけでなく、銭湯としても有名で様々な人が訪れる。

一般市民、特に冒険者が多い。

ひと仕事を終え、疲れた体を癒すためだろう。

 キシが初めて冒険者ギルドに来て早々、オーウェルというそれなりの実力を持った冒険者に喧嘩を売られ、オーウェルを木端微塵にしたあの日以来、少しマシになったものの、未だに周りから怖がられてしまっている。


「あ!お前はキシか!?」


 キシは突然の声に驚き前を見ると、あの男がいた。


「エル・オーウェル……」


 そう、キシに喧嘩を売った男である。

前に見た時より体が筋肉質になっている。


「久しぶりだな、エル・オーウェル」


「あぁ、まさかこんな所で会うとはな」


 オーウェルはそう言って笑うと、湯船に入り、キシの隣まで移動する。


「あの時はすまなかった……」


 キシは思いがけない言葉に目を丸くした。


「俺な、あの時冒険者ランクがAになったばかりで嬉しくて調子乗ってたんだ。

でも、お前と出会って―――何も手が出ずに圧倒されちまった。

俺はあの時気づいたんだよ。

俺はなんで調子乗ってたんだってな……。」


 その後オーウェルは猛反省し、自分の体を鍛え直した。

苦しくても、弱音を一個も吐かず。

 その努力はいつの間にか、行動にも影響が出ていた。

周りに気を配れるようになったのだ。


「お陰で信頼のできる仲間も増えたよ。

あの時キシにもし会っていなかったら、俺はずっとあの調子で自然と孤立して行っただろうしさ……」


「そうか……」


 意外だった。

キシがオーウェルを初めて見た時、もう腐ってしまっている人間で、自分を見つけた瞬間、復讐とかしてくるだろうと思っていたのだから。


「だから、本当にすまなかった!」


 オーウェルはキシに頭を下げた。


「じゃあ俺からひとつお願いがある」


「なんだ?」


「もし、何かあったら俺を頼ってくれ。

そして、2人でお互いに冒険者として頑張っていこうぜ。

俺のことキシって名前で呼んでくれ」


「そうか……。

お前は本当に良い奴だな。

こちらこそお互いに頑張っていこうぜ!

俺のこと、オーウェルって呼んで構わないぞ」


 そう言うとオーウェルはキシに手を伸ばす。

それに答えるようにキシも手を伸ばしオーウェルの手を握った。


「これからよろしくな!キシ!」


「こちらこそよろしく。オーウェル」


 こうしてキシに新しい仲間が増えたのであった。

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