第10話 豹変

 しばらく、キシは眠ることができずにいた。

 それもそのはず。女の子と一緒のベットで寝ることなど、2次元の世界でしかありえないと今まで思っていたからだ。

 しかし、今は違う。

少し横に動いただけで、触れてしまうような距離。

そんな状況に男というものは心臓の鼓動が速くなってしまうことなど普通のことだ。

 当然、キシも例外ではなかった。

ドキドキし過ぎで、朝の目覚めと同じように元気がある。

 しかし、レイがいる気配がないことに気がついた。

体を仰向けにし、視線をレイが寝ていた方に移す。

ベットにはいなかったが、少し先の方にレイが立っていた。


「レイどうした?寝れないのか?

遠慮しなくていいから―――!?」


 キシは体中に電気が走ったような感覚に陥った。

外敵が来たわけではない。

レイから今まで感じたことのないような魔力。

そして、恐怖感に襲われた。


「は………は………」


 キシの息が上がっていく。


「――――」


 レイの顔がゆっくりとキシの方へ向いていく。

瞳孔が細くなり、何かに取り憑かれたような表情をしている。


「うわぁぁ!!はぁっ…はぁっ…」


 今までで一番恐ろしく感じた。

キシの体は怯えたネズミのように動かない。

周りも無音なため、余計に恐ろしく感じる。

キシの体からは汗が滲み出ている。


「―――――」


 レイは無言のまま、キシの方へ歩き出した。

表情は変わらないまま。

 一方、キシは息をすることで精一杯だった。

迫ってくるレイを止めることもできず、ただ見ることしかできない。

 レイはキシの目の前まで来ると、キシの顔に近づける。

 そして、


「あは」


 世にも不気味な笑い声をし、そのままキシに寄っかかるように倒れてしまった。


「――――な、何だったんだ――」


 この後、キシは10分もの間硬直したまま動けなかったという。




◇◇◇





 翌朝、眩しい日差しが部屋の中を照らす。

 キシは結局眠れなかった。

あの出来事のあと、我に返ったキシはレイをベットに寝かせ、布団をかけてあげたが、ずっと頭の中であの光景がリピートされていた。

 おかげで、キシの目の下には大きな隈ができていた。

 

「んっんー……ふぁぁ……おはようキシ。

なんか大きな隈出てるけど大丈夫?」


「おはよう……うん大丈夫、じゃない気がする……」


「……もしかして夜中わたしに何かあった?」


「えっ?いや、えっと……」


「やっぱりあったんだね……迷惑かけたくなかったんだけど……」


「もしかしてあの時言ってたのってこの事だったのか」


「うん……ごめんね、私が一緒に寝たいって言ったのにこんな事になってしまって……」


「……レイって俺になんか隠してることない?」


「―――――っ!」 


 いきなりそう言われ、レイは目を大きく見開く。

図星だった。

そして、しばらく考えたあと、意を決してキシに伝える事にした。


「―――わたし実は記憶がないの」





  


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