第2話 独りぼっちの少女1

「なんだよお前…」


 エルはボロボロになっていた。

キシとのバトル開始からたった5秒のことだった。


「これで、みんな納得してくれますよね?」


「……」


「じゃあ、俺はクエストの依頼見てくるので。」


 キシはクエストの掲示板の方へと向かっていった。

 周囲のみんなは視線だけキシを追っていたが、体は動かなかった。

 オーウェルとキシのバトルを見て、誰もが恐怖におびえていた。


「あ、あいつは何者なんだ?」


「あのエル・オーウェルでさえ、手出しできなかったぞ…」


 そんな言葉がどよめく中、キシは簡単な討伐クエストの紙を持っていき、さきほどの受付嬢のもとへ行った。


「これでお願いします。」


「え…あ…はい…」


 受付嬢はエルと戦ったところを見ていたため、完全に固まってしまった。


「大丈夫ですか?」


「あ…大丈…夫です」


「すみません。エルさんって言う人が本気でやってもいいって言われたもんでつい…。

では、行ってきますね。」


「そう、ですか…。行ってらっしゃいませ。」


 キシはギルドの外へ出ていった。

まだ、ギルド内は静寂に包まれていた。

受付嬢はなんとか心を落ち着かせていた。

そして、


「あの人の頭と瞳の色、そしてあの頭から出ていたものは、まさか…!」





◇◇◇





「さて、雑魚モンスターでも狩りますか。」

 キシは平原に来ていた。

クエストの依頼でゴブリン20体を討伐するためだ。

 魔力がほとんどないので、剣を使ってゴブリンを退治する。


「親には恨みしかないけど、学んだ剣術は、なんだかんだ役に立つんだよな。

腹が立つ。」


 そんな愚痴を言いながらゴブリン20体を討伐し終えた。


「さて、素材を取ってギルドへ帰るか。」


 素材を取り終え、キシはギルドへ向かう。

ギルドにつくとキシを見かけた人はみんな目をそらす。

そんな事も気にせず、キシは受付カウンターに向かった。


「クエスト終わったので報告しに来ました。」


「あ、お疲れ様でした。キシさん。」


キシは受付嬢にゴブリンの素材を渡す。


「はい。確かにゴブリン20体討伐を確認できたので、報酬として3000Gお受け取りください。」


 そう言って受付嬢はキシに3000G渡すと、


「あのー。1つご質問いいですか?」


「なんですか?」


「先程のエルさんとのバトルを私も拝見させてもらいました。

あなたのような力があればもっとランクの高い依頼でも良いのではないかと思いまして。」


「実はあの力はあまり使いたくないんです。」


「どうしてですか?」

 

「あまり長時間使うと一日動けなくなるので…」


「そうでしたか…」


「……。では、また明日来ますね。」


「はい。またいらしてくださいね。」





◇◇◇





 キシはゴブリンを討伐した平原に来ている。

この平原を見て居心地の良い場所と思い、それからは必ずここに来るようにしている。


「この何もない感じがすごく落ち着くんだよな。何も考えずに適当にここをぶらつくのが良いね。」


 しばらく歩いていると、小さな池を見つけた。


「こんなところに池があったのか。

今まで気づかなかったな―――ん?」


 池のほとりに一人で座っている人を見つけた。

キシはこっそりとその人に近づいてみる。

近づくにつれて、その人の姿がわかってくる。

 そこには、この世界では珍しい紫髪の12〜13歳くらいの女の子が座っていた。


(なんでこんなところに女の子が?

てか、俺のやっていること完全にストーカーじゃん…。

今頃気づく俺もどうかと思うけど)


 しかし、キシは彼女の姿を見るとある記憶が蘇る。

前世の記憶、転生したあとの親の記憶、つらい日々が。

彼女の姿を見ると、どうしてもあの頃の自分の姿と同じように見えてしまうのだった。






 







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