第10話 入学式
高校の入学式、顔も見たことがなかった父が家に来た。母は本意ではなかったようで、家は荒れていた。一人っ子の私は他に頼る人がおらず、入学式が終わったあと、渋々家を出ていった。
途方にくれた。今日は入学式という晴れやかな日だ。そんな日に家では争いが起きている。もう自分でも薄々気づいている。これが普通でないことに。でも気付きたくない。気づいてしまったら自分が辛い。
コンビニや雑貨屋で時間を割き、帰りは明かりの灯った綺麗なお家をみながら、ああ、自分は恵まれなかったなと劣等感に浸るばかりである。家の前まで来たが、きっとまだ父はいるだろうし争いは続いているだろう。とてもじゃないけど入る気にはなれなかった。
財布にはまあまあな額のお金が入っている。私は最寄り駅に走った。この世界から逃げれたら。どんなにいいか。少しだけでいい。少しだけ、わがままを聞いて下さい。
真新しい制服が汗で湿って来た頃、最寄り駅についた。とりあえず遠方の切符を買って改札を通る。もう日も落ちてあたりは真っ暗だ。上り方面は学校の人達に会う可能性があると思い、下りホームに駆け込んだ。
ちょうど列車がきた。2両編成の赤い列車に乗り込む。座席に座った瞬間、どっと疲れがでた。汗がじわっと染み込み、蒸気が暑い。やがて心臓の鼓動もおさまり、列車が発車する頃にはすっかり寝てしまった。
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