第4話 餃子(オプノル)
今日は早い電車に乗れた。部活も補習もない5限目までの授業だったからだ。ホームルームが終わって一番乗りに教室を出て、まず向かうのは最寄りの千金駅。そこから約1時間電車に揺られて、異世界食堂ニーチェへ向かう。
異世界は夕暮れ時だった。いつもは真っ暗で、夜の街にはたくさんの明かりが灯っているが、今日はまだ営業していないところも多いようだ。
放課後のお腹が空いている時間帯はいつも足早にニーチェへ向かう。勢いよくドアを開けるとリンが笑顔で迎えてくれる。
「今日もいらっしゃい!」
今日はガラガラだった。まだ夕飯時には早いということと、仕事で狩りに出かけている人が大多数らしい。とはいえニーチェはいつも満席御礼の大繁盛であることには間違いない。私はカウンターに腰かけ、メニュー表を開いた。
「今日はいつものじゃないの?」
リンがおしぼりを持ってきながら聞いてきた。
「うーん、今日は違う気分なの。」
「メニューみても読めないでしょ?あたしがとびっきりのやつ作ってあげるよ!」
そういって、味は任しとけと言わんばかりのグッドサインを出てきた。確かにメニュー表は日本語じゃないから読めないが、そこまで言われたら応じるしかない。
「じゃあお願い!」
「おっけー!」
リンは楽しそうに厨房に入っていった。
私は今日でた課題をしつつ楽しみに出来上がりを待った。
「お待たせー!」
ものの10分ほどで料理が運ばれてきた。
大皿にたくさん並べられている。
きつね色に輝いた絶妙な焼き加減。油のテカリと香ばしい香りが食欲を促す。見た目は完璧に餃子であるが。
「これは?」
「オプノルっていう料理だよ。北の海にしか生息しないオープって魚と、村で採れたアジっていう根菜を潰して練って、薬草と牛皮で包んで焼いてるよ。あ、薬草って言っても実際クエストなんかで使うガチのほうじゃなくて、日本で言う春の七草みたいな感じだから安心して!」
春の七草の例えがあっているのかわからないが、どうやらこちらでは肉でなく魚を練って包んでいるらしい。見た目は1口サイズの餃子。さて、味はいかに。
「……!!」
一口噛んだ瞬間に中からジューシーな汁が溢れでてきた。そしてもちもちな皮と、薬草のシャキッとした食感。少しほろ苦さがあるが全然大丈夫だ。むしろこのほろ苦さが丁度良い。そしてギチギチに詰められたオープとアジ。歯応えのいいアジに、ふっくらしたオープが優しく絡んでいる。
「あ、一口で全部いっちゃわないと、オープの汁がこぼれてもったいないよー!」
なるほど、この旨味汁を逃がさないために一口サイズなのか。考えられている。そして一口食べ出すととまらないこのうまさ。水を飲むのも忘れて一気に大皿を平らげてしまった。
「はやいね!まだ入る?」
「もうお腹いっぱい……あ、でもデザートなら。」
「さすがだねー笑」
そう言うとリンはすぐにデザートを持ってきた。
「サフィアっていう豆だよ。」
リンが持ってきたのは、小皿に大豆のような豆が10粒ほど盛られているものだった。
一瞬、私は鳥か?と突っ込もうかと思ったが、ニーチェなんだから美味しいに違いない、と腹を括って一口食べた。
本当に大豆の感覚で食べたのが間違いだった。外側はカリカリしているが、中はプルプルしている。グミのような、ひんやりした味わいが広がる。お口直しにも丁度よく、ペロリと食べてしまった。
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