第2話 オムライス(ウルモ)


夢うつつに目を開けると、車窓越しに鮮やかなネオンが映った。カジノ、ギルド、酒場など他にも様々な店が軒を連ねているのがみえる。しかし反対側を見てみると山に覆われている。この山の向こうには、魔物がうじゃうじゃといるんだろうか。

駅に着いた私は真っ先にニーチェへ向かう。

足早に来てみたが、今日はかなり混んでいるようだ。店の前には騎士や魔術師、旅芸人などいろんな人達が並んでいる。

「お、きたか!今日は混んでんだぁ、明日は異世界の休日だから、狩りにでた奴らも帰ってきてるんだよ。」

リンが客で溢れかえってる入り口からひょこっと顔を出して私を見つけるなりそう言い放った。

よく分からないが、どうやら外に出てた人達も休みのために帰ってきてるらしい。

「外にもテーブルだすから!」

リンと何人かのスタッフでテーブルと椅子が外に並んだ。

「空いてるところから座ってくれぇー」

ぞろぞろと座っていく客達。

私も空いていた椅子に座った。すぐにリンがウォーターピッチャーとおしぼりを持ってきてくれた。

「今日もいつものね」

「私のはゆっくりでいいよ。」

私の右隣に座ってきた人は、狩りに出かけていたのか、装備も外さないまま、おしぼりで顔を拭いている。小太りで強面で、ちょっと汗臭い。

次にリンがコップを運んできたので、私はピッチャーから水を注いだ。

「なあ、俺、クサイ?」

注ぎ終わってすぐに強面に話しかけられた。

「へ?」

「いやぁ、さっきまで狩りに行ってたんだけどよぉ、チンチロ捕まえたら唾吐きやがって、体中ベトベトなんだよぅ……」

「は、はぁ。」

チンチロが何かわからないが、臭い唾をはかれたということで、アルパカという認識にしておこう。

「まさかニーチェにこんな嬢さんいるとおもってなくて、シャワーも浴びず来ちまった、、臭かったらごめんな?」

「失礼だなぁー!ここは可愛い女の子だっていっぱいくるんだからなぁ?」

リンがそういいながら料理を運んできた。

「えー?だって俺がくる時むさ苦しい男ばっかりだぜ?」

「そりゃあ運がないね。」

と吐き捨てて店内に戻って行きかけたので、

「リン、これは?」

と聞いた。というのも、いつもの(モーリヤ)とは似ても似つかない料理が目の前に来たのだ。

「あー、ごめん!モイボ切らしちゃってさ、ウルモで堪忍してくれ!」

ウルモ、というのはこの料理名だろうか。

見た目はオムレツ。いやオムライスか?そこに骨付き肉が乗っている。ソースなどは一切かかっていない。代わりに薄紫の果実が添えられている。まずは骨付き肉を頂こう。手でとって豪快にかぶりつく。

「ん、おいひい。」

思わず声が漏れた。砂肝のようなコリコリ感があるが、骨に近くなるほど、ミンチ状にしたかのような柔らかさがあった。

「リヤンの煮付けか、いいなぁ、」

隣で強面がまた突っ込んできた。

「リヤン?」

「あぁ、顔が3つついてる猛獣だ。狩るのもLv20以上出ないと厳しい。あとそれは焼いては食えん。硬すぎてな。。」

言われてみれば煮ているのか、皮に味が付いていておいしい。そして確かに柔らかいが、これは何時間もじっくり煮込まないと出せないのだろう。しかし中からも濃い味が染み出してくる。

「リヤンはなにも味付けしなくても自らの味が出てくるからうまいんだよなぁ、、」

もしかして、と思い、スプーンでオムライス(ウルモ)を掬ってみた。中はミンチ状になった、多分リヤンだ。そしてなにか種のような(トウモロコシに近い)ものも混ざっていた。恐る恐る口に運ぶと、甘い皮で包まれた中からすごい肉汁が溢れ出してくる。しかもソースやケチャップで味付けしたかのような……これって……

「リヤンから味が出てくるだろう?」

強面の言った通り、これはまさしくリヤンそのものから出ている味だった。調整されていない、しかし臭みなども全くない。リヤンの濃い味を甘い皮で包み込んでくれる。さらに柔らかいリヤンの食感に、種がいいアクセントになっている。

「おいしい。。」

「ウルモは初めてか?この甘い皮はマヤトリのタマゴだ。濃厚で甘いだろ。そんでその中にある種はモザイクって果実の種だ。モザイクは種も茎も皮も丸ごと食えるんだ。ちょっと甘みがあってうまいだろ?」

「は、はい……!」

この強面、料理に詳しくて優しい……。


やっと丸ごと平らげた頃には、強面はもういなかった。残るは薄紫の謎の果実……。

もはやデザート感覚で(プチトマト感覚で)残してみたが、果たしてこれは甘いのか。

表面はブツブツしているが、このまま食べられそうだ。

丸ごと一個口に運び、噛んだ瞬間……

「すっっぱっっ!!!」

ケホケホと少し咳き込むくらい酸っぱかった。甘いのを想像していたから余計酸っぱかった。

「あ、それウルモと一緒に食べるんだよ。」

たまたまピッチャーに水を補充しにきたリンにそう言われた。

ああ、唐揚げにかけるレモンのような、パフェに刺さっているお口直しのウエハースのような、そんなポジションだったんですね……。しかしこればかりは単体ではまともに食べられそうもなかったので残すことにした。私が食べ終わっても尚行列はやまず、後日談によるとclosedの看板をたてても人集りは止まなかったらしい。華金恐るべし。

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