第六章 その⑥「三毛猫」
今までどこにいたのか、肝心な場面でしっかりと登場する立夏。
「顔ぐらい拝ませてよ。死にそうな目にあったんだから」
成行は立夏に言う。それくらいの権利は、あってもいいだろう。
「私は岩濱君に言ったのではありません。その後ろ」
立夏は、成行と見事の背後を指さす。そこは御庭番が横たわっている辺りだ。
「えっ?」
成行が再び御庭番へ視線を向けようとしたときだ。コツンと何かが頭に当たった。
その光景を目にした見事は、顔を引き
何か細長い金属のような物。よもやと思いつつ、ゆっくり振り返る成行。
振り返ればアイツがいるではないか。そう、御庭番だ。いつの間にか起き上がり、成行の頭部にリボルバー型拳銃を突きつけていた。
自然と両手を上げてしまう成行。御庭番にそうしろと言われたわけでもないが、体が勝手に反応してしまう。
「凄い、次元大介みたい・・・」
そう言いつつ、魔法の杖とかではないんだなと思う成行。
「残念。M29でした」
悪戯っぽく喋ってみせる御庭番。
ここにきて、ようやく声を聞くことができた。その声は、やはり自分たちと
「ゴルゴ13・・・?」と、小さい声で言ったのは見事。
「ダーティーハリーでしょう?」
立夏がツッコむ。
「正解!」と勢いよく言う御庭番。すると、自ら目刺し帽を外した。
思わずアッという表情をする立夏。それは成行も、見事も同じだった。まさか、自ら素顔を晒すとは思いもしなかった。
目刺し帽を一気に脱ぎ捨てると、ミルクティーベージュのロングヘアが風になびく。その光景に一瞬、目を奪われそうになるが、見事はそういう所作を見逃さないので、すぐさま知らん顔をする成行。
しかし、見事は無言でこちらを見ている。どうやら誤魔化せなかったようだ。
M29を手にした少女は、大きめのくっきりした目をしていた。それが彼女の最も特徴的なポイント。立夏のおしとやかな容姿と雰囲気とは異なり、ファッションモデルのような端麗な容姿をしている。
こんな子が御庭番をしているのか。彼女の美しさと、それとは相容れない情け容赦のない攻撃。そのギャップに困惑する成行。
「君の名は?あっ、今のは狙ったわけじゃないよ?」
思わず彼女の名前を尋ねた成行。
「ふふっ、岩濱君ったらいきなりナンパですか?」
上品な笑顔で余計なことを言う立夏。頼むから、そういう発言はやめてほしい。
一方、見事は怒ったドーベルマンのような顔をしていた。委縮した豆柴のように、そちらの方向から目を逸らす成行。
「私は三毛猫」と御庭番の少女は答えた。
「三毛猫?」
三毛猫というよりも、ロシアンブルーのようなシャープな印象を受ける。成行は、三毛猫と名乗る少女をジッと見た。
「もう、三毛猫さん!素顔は見せないって約束じゃあ―」
三毛猫に注意をしようとする立夏。それをサッと右手で制する三毛猫。
「まあまあ。そんなに熱くならないでよ、立夏さん。それよりも、成行君。アナタ、とても強かったわ」
三毛猫はそう言って微笑んで見せた。ほんの一瞬だが、三毛猫に
おっと、これはもしや・・・。嫌な予感がした成行。自然体を装い、ゆっくり見事に視線を向ける。すると、先程の戦闘中以上に殺気立っている見事。ドーベルマンからサーベルタイガーにグレードアップしたようで、思わず顔が引き
見事が何も発言しないのが余計に怖い。
「大丈夫ですよ、見事さん。成行君のことは攻撃しませんから」
そう言って拳銃を収める三毛猫。
「初対面なのに慣れ慣れしいのね。私もマグナム銃を持ってくればよかったわ」と言い放ち、三毛猫への敵意を隠す気が皆無の見事さん。
「あらあら、何かアメリカのリアリティ番組を見ているみたいで面白いですね」
クスクス笑う立夏だが、成行には悪意があるとしか思えなかった。
「でも、三毛猫さん。あなたは御庭番なんですから、その自覚を持ってください」
「まあまあ、そんな固いことを言わずに」
立夏の忠告を意に介さない三毛猫。
「実際、戦ってみてわかったわ。確かに成行君の力は脅威ね。つい最近、魔法を覚えたというなら
三毛猫はそう言いながら成行に微笑みかける。また、
「もう満足した?取り敢えず、これ以上戦うのは勘弁願いたいんだけど・・・」
「十分です」と、満面の笑みで答える三毛猫。方や、見事は阿修羅の如くだが。
「もう、終わった?」
ようやく八千代が現れた。今までの戦闘は、全く関係ないという素振りである。
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