第七章 その①「言い間違え」

「終わったじゃないよ、いいんちょ・・・」

 少し呆れながら言う成行。

 当人は関係ない素振りをしているが、裏では繋がっているのではないのかと勘ぐってしまう。

「あら、疑ってる?岩濱君」

「いや、勘が鋭いな・・・。いいんちょ」

「岩濱君って自分で思う以上に、顔へ反応が出やすいのよ?さっきも、三毛猫を見てヘラヘラしてたし。ねっ、見事」

 見事に賛同を求める八千代。

「うん・・・」

 不機嫌そうな顔で、静かに賛同する見事。

「ちょっと待って!僕はヘラヘラしてないよ!っていうか、見事さんもそんな顔しないで!」


 見事にらぬ誤解をされている。成行は焦る。ヘラヘラなどしていない。三毛猫の笑顔にクラっとしただけであって、やましいことなど何もない。そう、何もない・・・。

「三毛猫さんの笑顔と、私の笑顔。どっちが素敵?」

さんです」

 彼女からに変化球に焦るあまり、んでしまった成行。

「成行君・・・!」

 見事のオーラが変わる。明らかに彼女が魔法をオンの状態にしている。

「いや、ちょっと噛んだんです!本当です。落ち着いて!誤解がある!」


 命の危険を感じる成行。三毛猫との戦闘以上に緊張感と恐怖を覚える。

「さっ、私たちはお暇しましょう。また、後日連絡しますね」

 ワイドショーのMCのように、サラッとさわやかに言う立夏。

「立夏さん。私、道の駅でソフトクリーム食べたいな!ブルーベリーのソフトクリーム」

 三毛猫は子供っぽく

「そうしましょう。少し疲れたので休憩にしましょう」

 三毛猫の案に乗る立夏。

「二人とも道の駅に行くんだ。ブルーベリーソフトクリームか。私も食べに行こうかな?いい?見事」

 二人の話を聞いていた八千代は、見事に尋ねる。

「どうぞ、ご自由に・・・」と短く答える見事。

「僕もソフトクリーム食べたいな・・・」

 震えながら言う成行。

「成行君はダメ。私と補習授業をしてもらいます・・・」

「マジで!」

 最後の望みを絶たれたかのような絶望感。成行は慌てふためきながら言う。


「いいんちょ、立夏さん!僕のことはいいの?僕の魔法を見て、色々と確認しないといけないんじゃないの?ねえ⁉」

 必死に二人を引き留めようとする成行。捨てられそうな子犬のように、二人にヘルプの意思表示する。

「今日は、もういいかな。岩濱君と三毛猫のバトルは十分見れたし、立夏もOKでしょう?」

 呑気に言う八千代。

「ええ、全く問題ないです」

 立夏もキッパリ答える。二人とも興味を失ったかのように素っ気ない態度だ。


「そんな!話が違うぞ!ほら、もっと色々と僕のことを調べないと―」

「まあまあ。そんなに慌てないでください、岩濱君」

 落ち着いた様子で話す立夏。

「三毛猫との戦いで、アナタの能力をかなり観察できました。とても意義のある時間だったと思います。見事さんも岩濱君の師匠として、しっかり特訓してくれるでしょう。それに、これ以上お二人のことを邪魔しちゃうと申し訳ないですし。ウフフ!」

 こんなときに気を遣ってくれなくてもいいのに。

「じゃあ、成行君。またね」

「じゃあ、見事。あとで連絡するわね」

「では、失礼しますね。岩濱君、見事さん」

 三毛猫を先頭に、立夏と八千代は練習場からさっさと撤収し始める。


「・・・」

 その場を去る三人をただ見つめることしかできない成行。

「これで二人きりだね、成行君」と言う見事だが、全くロマンチックな響きはない。

「えーと。僕たちも休憩しませんか?見事さん・・・」

 見事には一旦、落ち着いてもらうしかない。言葉を慎重に選ぶ成行。

「何、言っているの?まだ、時間はあるんだし、徹底的に練習するわよ・・・」

 何か確固たる意志があるのか、全く妥協する気のなさそうな見事。その証拠に、魔法の発動を止めていない。

「オワタ・・・」

 こうして、残りの午前中、成行にとっては地獄の特訓が始まった。

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