第六章 その⑤「刹那の判断」

「炸裂!」

 成行が叫んだことによって、御庭番の拳は成行を直撃しなかった。炸裂魔法が御庭番拳を弾き返す格好になった。御庭番は静所家の別荘に叩きつけられる。


 恐怖と興奮が入り混じり、激しい動悸どうきがする成行。一瞬で、全てを判断しなくてはならなかった。以前、忠告されたこと。魔法の威力を間違えれば相手が死ぬかもしれないということ。

 炸裂魔法を放つ瞬間、相手を弾き返す程度と意識した。岩を割る程度だと、御庭番の体が真っ二つになりかねない。これをほんの僅かな時間で判断しなくてはならなかった。


 別荘の壁に叩きつけられて、ぐったりしている御庭番。どうやら体はハーフカットになっていないので、炸裂魔法を自分が思ったように扱えた。そのことに安堵する成行。

「助かった・・・」

 思わず一安心して、体から力が抜ける。

「成行君!」

 と、今度は見事が彼に飛びついてきた。

「みっ、見事さん?」

 彼女に抱きつかれて、今度は別な意味でドキッとする成行。


「成行君!大丈夫だった?」

 目を潤ませている見事。自分のことよりも、真っ先にこちらを気にかけてくれる事に彼女の優しさを知る。

「僕は平気。見事さんこそ、大丈夫?」

 成行は無論、自分のことよりも見事のことが心配だった。とっさの事とはいえ、彼女を突き飛ばす形になった。そのことは心配していたのだ。

「私は平気だよ」

 目を擦りながら微笑む見事。彼女の体に目を向けるが、外傷はなさそうだ。それを確認して、再度安心する成行。


「成行君、凄かったね。私、御庭番には気づけなかった」

 しょんぼりとしながら話す見事。

「それはいいよ。取り敢えず、僕も見事さんも無事だし。でも、一件落着じゃないよね」

 成行は未だぐったりしている御庭番を見た。よもや、死んではいないだろうかと心配になり始めていた。

 成行は別荘へ向かおうとする。

 と、見事が成行の体を強く抱きしめるように、それを制する。

「待って!危ないわ、成行君・・・」

 見事も御庭番へ視線を向けている。しかし、彼女の顔は、既に御庭番を警戒するモードになっていた。


「一応、確認したい。御庭番がどうなっているのか」

「なら、二人で行きましょう」

 互いに顔を見合わせる二人。静かに頷いて一緒に歩き始める。

 歩きつつ、成行は周囲を警戒した。戦いが始まって姿を現さない八千代と立夏。それに他にもいるかもしれない御庭番。本当の意味で、まだ安心はできない。


 御庭番がぶつかった別荘の外壁は、その衝撃で破損していた。この修繕には保険が効くのだろうかと思いつつ、静かに近寄る。

 成行の炸裂魔法と、外壁に弾かれてぐったりと横たわる御庭番。本当に死んでいると困るが、これが死んだふりならば、それはそれで困る。


「生きてるのかな?」という見事の一言が不安を煽るが、確認してみないとわからない。

 御庭番の体を揺さぶろうかと思った成行だが、一旦、それを思い留める。

 そして、再度、御庭番に手を伸ばす。彼の手は、御庭番の顔を覆う目刺し帽に向かっていた。

 この御庭番の顔がどんな風なのか確かめたくなったのだ。目刺し帽に手をかける。その傍らで、息を呑んで見守る見事。

 成行は利き手の右手で、ゆっくりと目刺し帽をはがし始める。


「そこまでです!」

 不意に大きな声がした。

 思わずビクッとする成行と見事。声は二人の背後からした。そちらを振り返ると、そこには立夏がいたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る