第六章 その③「御庭番」

 地面に叩きつけられる成行。一瞬の出来事だった。叩きつけられた衝撃で、全身に痺れるような痛みが走る。


「ぐっ!」

 成行は頭を強く地面に抑えつけられた状態。不本意ながら地面をめる羽目はめになった。相手は背中に乗っている。そのせいで、どんな奴が自分を押さえつけているのか、確認できない。

 必死に抵抗し、相手の顔を見ようとする成行。

 一瞬だが、相手の姿を目視できた。彼の背中に人物は、立夏と同じく上下デジタル迷彩服姿。顔は目刺し帽で覆われている。これだと年齢や性別が不明だ。だが、こいつが十中じゅっちゅう八九はっく、立夏が伴ってきた御庭番だろう。


 御庭番は右手で成行の頭を地面へ押さえつけるようにして、左手で彼の左腕を背中で押さえつけている。アクション映画やドラマでは、よく見かける光景だが、現実に自分がやられる立場になると想像以上に苦痛だった。体を動かして抵抗しようとするが、かえって苦痛が増し、動きが余計にとれなくなる。


 しかし、この窮地きゅうちを救ったのが見事だ。成行の動きを封じた御庭番に向かって回し蹴りをする。

「成行君を放しなさい!」

 見事の素早い回し蹴りを、更に素早く、低い姿勢でかわす御庭番。そして、そのまま右横へ飛ぶように移動し、見事から間合いを取った。


 成行は身の自由を取り戻す。

 時間にすれば、数十秒ほどの出来事。だが、その僅かな時間であっても、成行の体にはまだ痛みが残っていた。


 それをこらえながら立ち上がる成行。

「大丈夫、成行君?」

 御庭番を睨みつけながら、成行の無事を確認する見事。

「大丈夫、

 痛みを堪えながら微笑んだので、がまわらなかった成行。


 一方、御庭番は二人から二十メートルほど離れた場所にいた。

 ようやく、その全身像を拝んだ成行。また、目刺し帽姿か。何で、こうも目刺し帽姿の人物に縁があるのか。

 少しうんざりする成行だが、御庭番の姿を見て直感したことがあった。

「女の子か・・・?」

 思わずつぶやいたが、それに透かさず反応したのが見事だった。

「えっ?女の子・・・?」

 鋭い視線が成行に向く。彼女の視線は、成行を非難している。

「待って!今は僕を睨んでる場合じゃないでしょう!その何て言うか、そんな感じでしょう?」


 慌てて弁明する成行。だが、決してを言っているわけではない。あの御庭番が自分の背中へとき、単純に重いとは感じなかった。

 押さえつけられる力は凄かった。しかし、筋肉隆々の男に押さえつけられているという感覚ではなかったのだ。それは、あの僅かな時間で感じたこと。成行の率直な感想とも言える。

 それに、これまた単純な話だが、御庭番の身長が見事と変わらない気がした。おおよそだが、身長百六十センチ前後だろうか。

 見事は御庭番に再度、視線を向ける。「確かに・・・」と、短く答えた見事。


 あれ?そんな簡単にわかってもらえたのか。少し拍子抜けする成行。だが、見事に変な誤解をされたままよりマシだ。


 一方、御庭番は声を発さず、静かに成行と見事を見つめている。

 姿格好は、まるで特殊部隊員のようだが、武器のたぐい一切いっさい、手にしていない。ナイフも銃火器もない。かと言って、魔法使い的なアイテムもなし。魔法の杖も、斧も持っていない。

「見事さん、聞いていい?」

 成行は呼吸を整えながら尋ねる。

「何?成行君」

「今、アイツがどんな能力を持っているか考えているんだけど、何かヒントはない?」

「私と同類かもしれない・・・!」

「見事さんと?」

 そうなると空間魔法を扱えるのか。その仮説が正しいなら、厄介な相手だ。見事と類似する魔法なら、彼女の動きも向こう側に推測ができてしまう。


「それだと、こっちには有利な状況じゃないよね?」

 成行は見事に問いかけつつ、御庭番から視線を外さないようにする。

「そうとは限らない。それなら私にも向こうの手の内が読める」

 見事がそう話した瞬間、御庭番が天高く飛び上がる。

 そして、こちらと間合いを取るかのように大きく後退した。そう、それはハッキリ言ってしまえば逃げ出したのだ。

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