第六章 その①「真意は・・・?」

 「何で立夏さんがいるの?」

 怪訝そうな表情の見事。

 今までとは異なり、立夏はまるで米国海兵隊員のような上下デジタル迷彩服姿で現れた。


 「見学しにきました」

 無邪気に答える立夏。しかし、その言葉とは裏腹に、そのには警戒心を抱かざるを得ないだろう。

 「あっ?それとも、私も体操服姿がよかったですか?岩濱君」

 「お願いだから、その話題はやめて。僕が何をしたって言うんだ・・・」

 冷や汗をかきながら言う成行。ちらっと見事に目を向けたが、怒りの矛先は彼に向いていない様子だ。


 見事は立夏に問いかける。

「もう一人いるでしょう?」

「流石、見事さんですね」

 感心した様子の立夏。いささか芝居臭いが。

「誤魔化しても無駄よ。出てきなさい!」

 見事は立夏の背後、草の生い茂る下り坂の急斜面に向かって叫ぶ。


「無駄です。もう一人は出てきません」

「あれ?御庭番を連れてきたの?」

 八千代も斜面の方を眺めながら言った。

「ご明察。もう一人は御庭番です。ですから、軽々しく姿を見せません」

 立夏の言葉を聞いた見事の表情が曇る。

 御庭番。それを聞いた成行にも緊張が走る。否応なしに、のことを思い出したからだ。青鬼あおき最優さいゆう。奴がそこにいるのか?


「流石、御庭番ね。やっぱりそう簡単には、気づけないものなのね・・・」

「ええ。だから、ヒントを差し上げたんです」

 立夏の言葉にムッとした表情の見事。


 ヒント?もしかして、先程ののことなのか?だが、それで気配を察知できる辺り、見事の空間魔法はやはり凄いと言わざるを得ない。

「余計なお世話ね。こっちは真面目に成行君の練習をしていたのに、アナタたちはしていたのね」

「そんなに怖い顔をしないでください」

 ラブリースマイルの立夏。が、そのことが見事への挑発にもなっている。

「ちなみに、八千代。アナタは知ってた?」

 見事は八千代を睨む。

「私は知らないわ。正式な通達なんてないし、をするから御庭番だと言えるんだし」

 飄々ひょうひょうと答える八千代。見事に睨まれても一切動じている様子はない。知らなかったという言葉に嘘はなさそうだが、何となく感づいていたのだろうか。そんな気がした。


「で、この後はどうするつもりなの?」

 立夏へ単刀直入に尋ねる見事。苛立ちを抑えながら問いかけているのは、一目瞭然だった。

「見事さん、提案があります」

「提案?」

「御庭番の方と、成行君がお手合わせするのはいかがでしょう?」

 さも素晴らしいアイディアのように言う立夏。

「成行君と御庭番を?正気?」

 見事の言葉には賛同せざるを得ない。冗談ではない。いきなり御庭番と戦えというのか?

 先月、誘拐犯のリーダーというか、隊長と対決したとき、生まれて初めて魔法で戦った。だが、あれは本当にと言えるだろうか?あれは運がよかっただけだと考えるべきだ。正真正銘、戦って勝利したとは言い難い。そんな自分が御庭番と勝負するなんて無理にもほどがある。


「もし、戦わせてくれるなら、同行している御庭番をここへ呼びますよ?」

 にこやかに提案する立夏だが、見事はすぐさま拒絶する。

「そんな条件ならこっちからお断りよ!さあ、練習の邪魔になるから、お引き取り願うわ!」

 見事がそう言い放ったときだ。フワッと風が吹きつける。体に当たる風は柔らかく、先程のような圧を感じない。

 が、その瞬間、見事は成行を脇に抱えてジャンプした。

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