第五章 その⑤ 「ブル魔女さん パート2」

「・・・」

 どうしてこうなった。そう思っている成行。彼の目の前に静所おとなし見事みことがいる。

「準備ができたわ。練習しましょう。成行君」

 見事は上下ジャージ姿から、体操服とブルマ姿へ着替えていた。想定外の事態だった。八千代の提案を受け入れて、見事は着替えてきた。


 不意に小突かれる成行。やったのは八千代。彼女は成行の耳元で囁いた。

「ほら、見事を褒めないと」

「えっ!あっ!」

 目を向ければ、何故か得意げな顔をしている見事。彼女なりに八千代へ対抗ができて満足している様子だ。

「えっと、寒くない?」

 褒めるのが下手な自分が恨めしいと思う成行。それは今、言うセリフではない。脇では八千代が少しあきれ顔だった。


 すると、見事はムッとした表情をする。

「ふん、別に平気よ。全然、寒くないわ!どこかのさんが喜ぶんじゃないかと思ったんだけど、無駄だったかしら?」

 見事はそっぽを向いてしまった。

「えっ??」

 苦し紛れに言う成行。

「成行君、魔法以外にも、ジョークのセンスを学んだ方がいいんじゃないかしら?」

 またも胸倉を掴まれる成行。見事の顔がのように赤くなっている。姉と同様、怒ると顔が赤くなる姉妹だ。

「おっ、落ち着いてください!憎しみや怒りからは何も生まれない!」


「成行君にはユーモアのセンスはあるわ。二人とも文化祭で夫婦漫才したら?きっと面白いわよ?」

 堰を切ったように笑いだす八千代。

「面白くない!」

 パッと成行を放す見事。そして、尻餅をつく成行。

「助かった・・・」

「もう!さっさと練習をするわよ!何のために、ここまで来たのかわからないでしょう!早く立ちなさい!」

 怒りつつも手を差し伸べてくれる見事。

「はい・・・」

 成行は起き上がる。

 見事に何と言うべきだっただろう?『よっ!ブル魔女!日本一!』とかか?いや、命がなかったかもしれない。今は魔法の練習に集中しよう。気を取り直す成行。


「さてと、岩濱君。さっき言ったように、あの岩に向かって炸裂魔法を放ってみて。そうね、岩を粉々にしなくてもいいから、例えば岩を強く打ちつけるイメージ。できる?」

 八千代は成行に尋ねる。

 今のオーダーを聞きながら、魔力をオンの状態にする成行。

「やってみるよ」

 八千代の発言から自身の頭の中でイメージする成行。


 一方、見事と八千代は、成行の後方へ退避した。

 岩を打ちつけるイメージ。一瞬、目を瞑り頭の中でイメージを固める。スッと深呼吸して成行は叫ぶ。

「いくよ!」

 静かに頷く見事と八千代。成行は岩に向かって右手をかざす。

『今だ!』

 心の中で叫ぶ成行。


 その瞬間、山間に轟音が響く。衝撃波で岩の細かい破片が飛び散り、パチパチと成行に当たる。音がした瞬間、思わず目を閉じてしまったが、岩は原型をとどめていた。

 成行は岩へ駆け寄り、間近でじっくり眺める。何かが激突したような損傷は見られるが、岩を粉砕するようなヒビは見当たらない。

 これは上手くいったかも。直感的にそう思った成行。


 後ろを振り返り見事と八千代に向かって叫ぶ。

「今のどうだった?」

 二人が成行の元へとやって来る。

「うーん・・・」

「どれどれ・・・」

 見事と八千代も岩をじっくり眺める。先に発言したのは八千代だった。

「悪くないんじゃない?」

 彼女は見事に目を向ける。

「どう?岩濱君の師匠。ご意見は?」

 そう言われて見事も見解を述べる。


「そうね。さっきの八千代の指示を鑑みれば、上手くコントロールできたと思うわ」

 見事は岩に触れる。

「岩に損傷はあるけど、破壊まではされていない。短いイメージで、これだけできれば上達していると考えていいわ」

「マジで?」

 見事に言われたことが素直に嬉しい成行。だが、実を言えば自分自身でも今の魔法には自信があった。魔法を発動し、放つイメージ。それが思い描いたように扱えた。

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