第五章 その③ 「西東村へGO パート2」

 ドアの向こうには西東村の静所家別荘。

 窓の外からは、調布市内と同様に気持ちの良い日差しがいっぱいに降り注いでいる。どうやら、この分なら寒さを心配する必要はないだろう。そこは一安心の成行。


「これなら思う存分練習できるわね」

 見事も安心した様子で話す。

 窓際に近づく成行。外には、初めて目にしたときよりも鮮やかな緑を見せる山々があった。

「綺麗な景色だな」

 景色に見とれる成行。登山が趣味の人には堪らない景色だろうと思う。

「それがネックでもあるのよね・・・」

 見事は山を眺めながら言う。

「それは、何でまた?」

「観光客や登山客が来るからよ」

 少しうんざりした様子で話す見事。


 それは良いことではないのかと思う成行。

 日本各地で地域振興のため、盛んに観光客誘致や都会からの移住を促しているのを目にする。こんな自然豊かな場所が都内にあるのであれば、それこそ関東一円から観光客を誘致できそうな気がするのに。


「魔法使い的視点が、まだまだ足りていないね、岩濱君」

 八千代も外の景色を見ながら言う。

「ここはね、魔法使いの村なの。何でこんなド田舎に魔法使いの学校があると思う?」

 八千代に問いかけられてハッとする成行。

「なるほど、人目を避けないといけないのか・・・」

「ご名答」

 西東村は魔法使いの村。つまり、一般人に見られては困るものもあるということだ。ならば、一般人の観光、登山、移住は歓迎できないという話になる。


「難しいのよね、その辺が。全国的に地方が、いやキツイ言い方になるかもしれないけど、田舎が観光や移住に力を注いでいるのに、この西東村はそれに関して熱心じゃないの。いくら魔法使いの村だからって、一般人を完全にシャットアウトっていうのは難しい。それこそ、明治維新以前は魔法でかなり誤魔化せたらしいんだけど、今の時代、そうはいかないの」

 見事は少し困り顔で話す。その隣で、八千代は腕を組みながら言った。

「西東村へは、ちゃんと都道も整備されているし、青梅市からも路線バスがあるの。だから、一般人がこの村へ来る手立てはあるわけね」

「でも、本音で言えば、一般人お断りってこと?」

「「そう」」

 見事と八千代の声が被る。


 改めて窓からの景色を眺め見る成行。

 都内で尚且つ、こんなに自然豊かならば、移住を希望する人は多いかもしれない。暖かい季節は登山やキャンプができるだろうし、秋は紅葉が綺麗だろう。観光客も古の時代に比べれば多いかもしれない。


「じゃあ、西東村では、どんな一般人対策をしているの?」

「それはあらゆる手を使ってるわ」

 成行の問いに見事が解説する。

「例えば、空間魔法を応用して、入れない場所を作るとか、結界を張るとか。あと、この村には大きなお寺と神社があるんだけど、その寺社の私有地だとか、自然保護区だとかって理由をつけて立ち入り禁止にしているの」

「それでもマナーの悪い人が侵入したりしない?」

 成行はテレビで見たマナーの悪い登山客やキャンパーを連想しながら尋ねる。

「そこはお巡りさんを使うわ」

「お巡りさんって、そんな単純な話で済むの?」

 そもそもお巡りさんは一般人ではないのかという疑念が湧く成行。

「この村の駐在さんは魔法使いよ。その辺はちゃんと手を打ってあるの」

「魔法使いのお巡りさんって。マジカルポリスメンってこと?」

「そうよ。あれ?成行君にマジカルポリスメンの話をしたかしら?」

 首を傾げる見事。成行は適当に、『マジカルポリスメン』と口走ったが、まさか実在しているとは。


「村の話は一旦ここまで。練習しましょうよ」

 八千代が言った。

「おっと、そうだった。じゃあ、外へ行こう」

「待って。今、鍵を開けるから」

 見事は外へのドアを開錠しに向かう。


「ねえ、二人とも。先に外へ行って。私は少し準備してから外に向かうから」

 八千代は二人に言う。

「わかったわ。じゃあ、行きましょう。成行君」

「うん」

 何の準備をするのだろうかと思ったが、それ以上は気に留めなかった。成行は靴を履き、見事と共に外へ出た。

 外へ出ると、新緑の匂いがする。都心では味わえない澄んだ空気で、身も心も軽くなる。


 成行の傍らでは背伸びをしている見事。

「うーん。この気持ち良い空気は堪らないわね。寒い時期には感じられない清々しい感じ。天気もいいし、最高だわ」

「うん、確かに」

 今の時刻は九時二十分。快晴で、微風あり。寒さは感じない。屋外での活動には最適だ。これだと登山やキャンプをしたがる人も多いだろう。改めてそう感じる成行。


「二人とも、お待たせ」

 背後で八千代の声がした。

 いいんちょは何の準備をしていたのだろう。そんな風に思いながら振り返る成行。


「あれっ!」

八千代を見て、思わず声をあげる成行。

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