第四章 その⑦「夕餉(ゆうげ)」
見事は成行の隣の席へ座る。黙って。しかし、ジッと成行を見つめる目は、物凄く何かを言いたげな気がしてならない。そんな彼女を直視できない成行。
カレーの入った鍋を温める八千代。鍋をかき回しながら、成行と見事の座るテーブルを見る。
「見事、何か顔が恐いよ。ほら、ラブリースマイル」
余計なことを言うな、と思う成行。
意を決して見事へ話し掛けることにする成行。
「えっと、カレー楽しみだね・・・」
精一杯考えてこんなことしか声をかけられない成行。すると、そんな彼の様子を目にした見事が言う。
「成行君、何か勘違いしているの?そんなに怯えなくてもいいわよ」
ここにきて微笑んでみせる見事。しかし、顔が笑っていても、目が笑っていないような気がする。
「べっ、別に怯えてないよ。まさか、いいんちょに夕ご飯へ招待されるとは思っていなくってさ。想定外だよ。はははっ・・・」
何でこんなことを言っているのだろう。そう思う成行。
「成行君、私から一つアドバイスがあるんだ」
「えっ?」
どんなアドバイスをしてくれるというのか。
「今後のことを考える上で、軽率な行動は慎むべきって思うの」
「軽率な行動・・・?」
「うん。例えば、ホイホイ他の女の子の家に行くとか?」
「はははっ・・・。そうだよね・・・」
口の中が乾いてしまい少し喋りづらい成行。
何というか、生きた心地がしないというのはこういうことをいうのか。見事のスマイルが何か余計に怖いものに感じる。
「例えば、何かの罠とかだったらどうするの?」
「そうだよね。それだとヤバいよね・・・」
取り敢えず同意する成行。
すると、八千代が見事に向かって言う。
「ちょっと、見事!私が何か企んでいるっていうの?」
そう言いつつも、八千代は呑気に笑っている。
まるで成行と見事のやり取りを楽しんでいるようにさえ見える。その姿は学校でのクールな雰囲気の八千代とは異なって見えた。
すると、ギロリと八千代を睨む見事。
「八千代も、八千代よね?ゲストをパシリ扱いするなんて」
「そんなつもりはないよ?夕飯をみんなで食べれば楽しいと思っただけ。コロッケを買ってきてもらったのは、そのついで」
相変わらず見事のことを意に介さない八千代。
「そう。そういうことにしておくわ・・・」
納得のいかない様子の見事。
そして、その隣で戦々恐々としている成行。
カレーライスは好物だが、果たしておいしく食べることができるのだろうか。
「何か手伝うよ、いいんちょ」
この状況に居ても立ってもいられなくなったので、八千代の手伝いをしようとする成行。
「そう?じゃあ、お皿を用意して。そこの棚から」
八千代は鍋をかき混ぜながら近くの食器棚を指さす。
「私も手伝うわ」
すると、見事も同調し、椅子から立ち上がる。
「いやあ、悪いわね。二人に手伝ってもらって。じゃあ、見事は成行君の用意したお皿にご飯をよそって。ご飯は炊けているはずだから」
八千代は見事に言った。
「本当に悪いって思ってる?」
「それはそうよ。見事の慈悲には感謝しているわ」
嬉々としてカレーを温める八千代。
成行と見事も手伝って、夕飯の用意ができた。
八千代はあんみつの夕食を与える。そして、ようやく魔法使い三人のディナーが始まった。
「さあ、二人とも召し上がれ」
ニコッと微笑む八千代。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
八千代に先んじてカレーライスを口にする成行と見事。
「んっ!美味しい」
「美味しいわ」
味付けは甘口。鶏肉、人参、ジャガイモは小さめにカットされていて、玉ねぎもみじん切りではないものの、細かくカットされている。豪華ではないが、家庭的な親しみのあるカレーだった。
「よかった。気に入ってもらえて」
嬉しそうに八千代もカレーライスに手をつける。
美味しいカレーライスのおかげで、妙な空気も薄れた気がした。
見事が買ってきたコロッケを口にする成行。コンビニのホットスナックコーナーで売られている物だが、侮ってはいけない。衣はサクサク。
「見事さんの買ってきてくれたコロッケも美味しいです」
「まあ、コンビニのだけどね」
見事はそう言いつつも、さっきの不機嫌そうな様子は薄らいでいた。
「ただ単に二人を夕食に誘ったわけじゃないのよ?」
そう言いだす八千代。
「えっ?それって、どういうこと?いいんちょ」
成行はスプーンを止める。
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