第四章 その④「あの子の秘密」
「ニャ。ご機嫌ようニャア」
そう言ってハチワレ猫・ゴマシオが鞄から身を乗り出す。立夏は鞄を足元に置いて、ゴマシオを抱きかかえる。
「見事さんと雷鳴さんは言うまでもなくご存じですね。岩濱君も知っていますよね?」
ゴマシオを撫でながら言う立夏。撫でてもらいゴマシオはうっとりした表情をしている。
「知ってるも何も・・・」
見事と出会うきっかけになった猫だ。忘れようがないだろう。
「待って、立夏さん。ゴマシオに成行君の監督をさせるの?」
見事は立夏に問いただす。
「ええ。だって、転校をお断りになりましたからね。そこで、彼女に監督をお願いすればいいのでは?という話になったそうです」
猫に魔法を教えてもらうのか?確かに喋る猫だから魔法を使えても不思議はないのかもしれない。だが、さすがに猫の先生は想像していなかった成行。本当に大丈夫なのかと半信半疑な気持ちになる。
すると、成行の顔を見た立夏は微笑みながら言う。
「猫に魔法を教えられるのかって顔ですね、岩濱君」
「いやあ、その・・・」
「お気持ちはわかります。では、ゴマシオに本当の姿を現してもらいましょう」
「えっ?」
本当の姿とはどういうことなのか。キョトンとする成行をよそに、ゴマシオは立夏の膝から床に飛び降りる。
「まあ、見ているニャ」
ゴマシオはそう言うと、いきなり飛び上がり空中回転した。
と、その瞬間、ボンっと白い煙が湧き起こる。
「わっ!」
思わず身を伏せる成行。
白い煙はすぐに収まった。すると、そこには思わぬ人物がいた。
「えっ!いいんちょ?」
黒髪のショートヘア。少し長身でスレンダーな体形は、猫を思わせるイメージがある少女。成行と見事と同じ学校の制服姿で、彼女はそこに立っていた。
目の前に現れたのは、一年C組のクラス委員長の
「これは一体・・・」
絶句する成行。猫が突如、クラスメイトの少女に姿を変えたのだ。驚かないほうがおかしいだろう。
「岩濱君、私も魔法使いなのよ」
しれっとそういう八千代。
成行は見事と雷鳴を見る。しかし、二人ともさして驚いている様子はない。以前からゴマシオの正体を知っていたからだろう。
「待てよ・・・。いいんちょって、確か・・・」
「そう。八千代は、私たちの学園の理事長の孫娘。つまりは、そういうことなの」
そう言ったのは見事だ。
西武蔵柏餅幸兵衛学園と柏餅幸兵衛学園は、兄弟校。魔法使いの学校と兄弟校となれば、学園関係者も魔法使いということになるのだろう。
「待って、僕たちの学校は普通の学校なんだよね?いいんちょ」
「そうよ。西武蔵が魔法使いしか通えない学校。まあ、魔法使いの高専と考えてもらえばいいかしら?それに対して、私たちの学校は普通の学校。魔法使いでも、そうじゃなくても通える学校よ」
「そういう違いなのか・・・」
思わず腕を組む成行。
「さて、どうするかな?八千代が監督者になるのか」
成行と同じく腕を組んで考えるのは雷鳴だった。
「立夏さん、私は反対よ。私は、私が成行君の指導をしたい。八千代には悪いけど、それは譲れないわ」
見事は立夏に言う。
「でも、困りますね。この案まで蹴られるのは。一応、雷鳴さんには配慮をした判断なんですよ?」
立夏は雷鳴を見る。そこは彼女も譲歩できないのか、真剣な表情で雷鳴を見ていた。
「見事さん。八千代さんとは、どんな関係なの?」
見事に尋ねる成行。
「説明するとややこしいんだけどね、何て言えばいいの?」
見事は困り顔で雷鳴を見る。
「八千代はな、私の
「へっ?
素っ頓狂な声をあげる成行。それはまたどういうことなのか。成行は雷鳴に尋ねる。
「曾孫って、あの曾孫ってことですか?」
「そうだ。そのまんまの意味だ」
すると、八千代自身が補足をし始める。
「岩濱君、私のおばあちゃんが、私たちの学校の理事長ってことは知っているでしょう?」
「うん。それは知っている」
八千代の祖母であり、柏餅幸兵衛学園の理事長・鎧通梅子を入学式のとき、理事長挨拶で顔を見ている。
「そのおばあちゃんが雷鳴さんの娘なの。私のおばあちゃんは双子の姉妹で、私のおばあちゃんが柏餅幸兵衛学園の方の理事長。双子のお姉さんの方が西武蔵柏餅幸兵衛学園の理事長をしているの」
「そういう事情だったのね」
「もう少し補足させてほしい」
そう言いだしたのは雷鳴だ。
「柏餅家というのは幕臣でな。旗本の家柄だった。魔法使いじゃなかったのだが、私と個人的な付き合いがあってな。明治初期、当時の当主だった幸兵衛が学校を作った。それは学校の歴史としてHPに載っている通りだが。しかし、戦後、学校経営が傾きかけてな。私が昔からの付き合いもあったから、学校法人をそのまま買い取った。そして、幸子と梅子の二人に経営を任せた。西武蔵の方は、魔法使いの高専として新規に開校させたがな」
「幸子さんというのが、梅子さんのお姉さん?」
成行は雷鳴に尋ねる。
「そうだ。幸子に魔法使いの教育を任せ、梅子には従来の、普通の学校としての柏餅幸兵衛学園を任せた。それまでは魔法使いの学校は、関東地方で言うと高崎にしかなかったからな」
「高崎?群馬県の?」
「そうだ。関東の魔法使いの学校は東京都の西東村と群馬県高崎市の二カ所にある」
「へえー・・・。って感心している場合じゃない」
「そうだな。少し話が脱線した。本題に戻そう」
雷鳴は立夏を見る。
「一応、静所家に配慮して、身内である八千代を監督者に推挙したのだな?」
「そうです」
嬉しそうに微笑む立夏。
「さて、どうするかな?なあ、見事」
雷鳴は見事を見た。
すると、見事は余裕のなさそうな表情で俯いている。
「やっぱり、私は反対。八千代の腕を疑うつもりはないけど、やっぱり私が成行君の面倒をみたい」
思いの外、粘る見事。彼女の気持ちは嬉しいが、ことは上手く運ぶだろうか?成行は八千代に視線を向ける。彼女の方は、特に悩むでもなく黙って見事を見ている。
すると、雷鳴は立夏に言う。
「どうだろう?八千代と見事の二人でユッキーの監督をさせるのは?」
「うーん」と、唸り立夏は答える。
「私の一存では答えかねます。ただ、上に提案はしてみましょう」
「頼むぞ、立夏」
すると、八千代が言う。
「そうしたら、岩濱君の処遇はまだ保留ってこと?」
「そうですね。雷鳴さんの提案を上層部にお伺いしてみましょう。雷鳴さん、それに見事さん。今の案なら、受け入れてもらえますか?」
「うん。それなら・・・」
消極的ながらも、承諾する見事。
「私もそれで構わん。もし、それで何かあれば、そのときはそのときだ。また、対応策を考えればいい」
雷鳴も最終的な意思表示をする。
「で、岩濱君は?」
そう尋ねてきたのは八千代だ。
「えっ?僕?」
「そう。だって、岩濱君の今後のことに関わるんだから、キミ自身の意思も確認しないと」
八千代の意見はもっともだった。
「僕も取り敢えず、それでOKです」
一応、見事が一緒に監督してくれるなら、変な扱いを受けずに済むかもしれない。ここは承諾しよう。成行はそう考えていた。
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