第四章 その③「監督者」

「監督者?」

 成行よりも先に見事が反応した。

「ええ、そうです。岩濱君の能力は使い方によっては恐るべき威力を持っており、ハッキリ言って脅威です。そんな岩濱君自身は魔法使いになりたて。では、そんな岩濱君をしっかり監督し、指導する人が必要ではないかと協会では考えたのです」

 立夏の言い分を聞いて、雷鳴の言う通りになりつつあると感じた成行。そっと雷鳴の方へ視線を向ける。彼女は渋い表情で話を聞いている。


「監督者と言うが具体的にはどうするつもりだ?」

 そう尋ねたのは雷鳴。

「はい。監督者に岩濱君の魔法のトレーニングをしてもらいます。そして、魔法の基礎的な扱いを覚えていただきます」

「だが、それだけじゃないよな?」

 ジロっと立夏を見る雷鳴。

「と、言いますと?」

 すっとぼけたような表情の立夏。雷鳴は話し続ける。


「監督者の役割はそれだけじゃないだろう?」

「つまり?」と、笑顔で聞き返す立夏。

「つまり、監督者は監督と同時に、もするんだろう?」

 雷鳴の問いかけに立夏の笑顔がスッと消える。

「隠しても無駄ですね。そういうことです」

「だよな」

 雷鳴はコップに注がれたウーロン茶を口にする。


「でも、待って。立夏さん。その件は、私が何とかするわ。というか、今、成行君の監督をしているのは私よ」

 堰を切ったかのように話し始める見事。

「それは上からも聞いています。ですが、それだと中立性が保てませんね」

「中立性?」

 怪訝そうな表情をする見事。

「ええ。見事さんは岩濱君が魔法使いになるきっかけとなった人物といっても過言じゃありません。ですから、見事さんもその責任感、使命感から岩濱君のサポートをしていると思うんです。けど、それだと客観的に指導できるか疑問がありますね」

「それってどういうこと?」

「岩濱君に対して甘くならないかと懸念しているんです」


依怙贔屓えこひいきということか?」

 雷鳴が立夏に問う。

「ええ。そういことですね」

「うーん・・・」

 腕を組む雷鳴。

「ものは言い様だな、立夏。要はユッキーを私たちの保護下から切り離したいだけだろう?」

 雷鳴の問いかけに、少し間をおいて答える立夏。


「まあ、そういうことですね」

 そう答える立夏の笑顔が少し冷たい。

「待って。東日本魔法使い協会は勘違いしている。別に私やママは成行君を利用して何かしようって考えているの?だとすれば、それは大きな誤解よ」

 見事は立夏に反論する。

「そう言われましても、私が下知げちをしたわけではないので。上には上の考えがあるんでしょう」

 見事の反論を受け流す立夏。


「まあ、魔法使い協会としてはユッキーをほったらかしにはできないんだろうな。魔法使いになった経緯や、九つの騎士の書など。だが、こっちとしてもいい気分じゃない。一方的に指示を出されて、それに従えと言われてもな」

 雷鳴は立夏を睨むように言うが、向こうは涼しい顔をしている。

「うーん。でも、私も困ってしまいます。実は今日、監督者をここにお連れしているんです」

 そう言って通学鞄を膝の上に置く立夏。


「監督者を連れてきたの?」

 驚いた様子で言う見事。

「ええ。早速、ご紹介しましょう」

 そう言って立夏は通学鞄を開けた。

「何?」

「えっ?」

 まさか鞄の中に誰か入っているのか。思わず顔を見合わせる成行と見事。

 

 すると、鞄の中から一匹の猫が顔を出した。

「こんにちはニャア」

「あっ!」と、思わず叫ぶ成行。

 その猫には見覚えがある。忘れようもないあの猫。見事とおしゃべりしていたハチワレだ。

「ゴマシオ!」

 見事は思わずソファーから立ち上がった。

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