第四章 その①「金曜の静所家へ」

 金曜日の放課後。ゴールデンウィーク後、最初の週末を迎える。

 ゴールデンウィークを終えた後に迎える最初の週末。それは何かホッとするものがある。毎年そう思っていたが、今年はそうもいかないようだ。帰りのHRの後、見事が成行のもとに来た。

「成行君、じゃあ、一緒に行きましょう」

「うん」

 成行と見事は教室を離れる。


 連休明けのかったるい平日が終わる。廊下を行く生徒たちには安堵と浮かれた気分が混じったような雰囲気が漂っている。

「成行君のお父さんとお母さんは、今日からまたお仕事?」

 廊下を歩きながら見事が尋ねてくる。

「今朝、早くに出かけたよ。前橋にね」

 成行の両親は今朝、前橋へ向かった。明日、土曜日から前橋競輪場にて開設記念競輪GⅢが始まる。そのため、今日金曜日は前検日。競輪記者の仕事は前検日から始まる。

「そうだった。今年の親王牌は青森で開催だったわね。前橋記念って、かなり久しぶりになるんじゃない?」

 思い出したように言う見事。

「だと思うよ。五、六年ぶりとかじゃない?ここ何年かは、ずっと前橋で親王牌ってイメージだったし」

 成行も記憶を辿るように言う。

 日本各地の競輪場では毎年度、開設記念競輪GⅢが開催される。

 しかし、GⅠなどの特別競輪が開催される場合、開設記念競輪GⅢは行われない。前橋競輪場はここ五年連続で寛仁親王牌GⅠを10月に開催していたので、開設記念競輪が久しぶりなのだ。


「青森で親王牌か。また、ママは現地まで行くんだろうな」

「好きだね、雷鳴さんも」

 苦笑する成行。

「来月も岸和田に行く予定だし」

「宮記念ね。これもずっと岸和田ってイメージだね。雷鳴さんって特別(競輪)は、現地まで観に行く派だよね?」

「そうね。特別競輪のときは、日本各地の魔法使いが現地まで来るから、魔法使い同士の交流の場として機能してる。それがこの前の日本選手権競輪ね」

「なるほど、確かに」

 二人で競輪の話をしながら高校側のバス停まで向かう。静所家へ向かうので、成行にとって調布駅方面とは逆のバス停へ向かう。

 魔法の話は公の場で話すわけにはいかないが、競輪のことなら、気にせず話せるので良い。だが、日本広しと言えど、競輪の話をしながら帰る高校生を探すのは至難の業だろう。


 10分弱ほど待って路線バスが来る。自宅へ帰るわけではないが、静所家への道のりには慣れてしまっていた成行。

 バスに揺られて、静所家最寄りのバス停で下車する。

 「今、雷鳴さんは家にいるよね?」

 バス停から住宅街へ通じる道を歩きながら尋ねる成行。

 「勿論。家で取手FⅠを見てるはずよ」

 住宅街を歩く成行と見事。西の空を見るが、まだ日が落ちるまで時間がある。


 「立夏さんは何時に来るのかな?」

 見事に尋ねる成行。

 「夕方に来るって言っていたわ。だから、私たちが着いてから、その後になるのかな?成行君、今夜は何か用事があるの?」

 「いや、別に。親も二人ともいないから、遅くなっても怒られないだろうし」


 しばらく歩くと静所家へ到着。雷鳴のランクルは止まっているが、アリサのシビックは止まっていない。彼女は来ないのだろう。成行の視線に気づいたのか、見事が言う。

 「お姉ちゃんはお仕事だから来ないよ」

 「まあ、いなくても大丈夫だよね?」

 「大丈夫よ。お姉ちゃんがいると話がややこしくなるかもしれないから」

 そう言って見事から家に入っていく。


 「ただいま」と見事が言ったので、つられて『ただいま』と言いそうになってしまう成行。寸での所で堪えて「お邪魔します」と言った。

 「私は鞄を置いて来るから、成行君はリビングへ行って。ママもそこにいると思うから」

 見事はそう言い残して二階の自室へ向かう。成行は言われるままリビングへ向かう。


 「おおっ!来た、来た!」

 リビングでソファーに座っていた雷鳴が立ち上がる。

 「こんにちは、雷鳴さん」

 見事の言っていた通り、リビングのテレビで取手FⅠの中継を見ていた雷鳴。ちょうどA級の決勝戦が始まるタイミングだった。

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