第三章 その⑥「夕飯」

 帰宅した成行。時刻は18時になろうとしていた。着替えをして夕飯の用意に取り掛かる。ダイニングルームへスマホは持ってきて、テレビの電源を入れる。


 父は伊東温泉競輪の取材のため不在。FⅠナイターの取材のため、今頃まさに仕事中だろう。母は今夜帰ってくるが、取材のまとめや会議で遅くなるとのこと。

 そんな母が昨日カレーを作ってくれていた。沢山だくさんのカレーで、成行が幼い頃からの好物だ。岩濱家のカレーは肉が毎回異なる。飽きないようにとの配慮で、牛、豚、鶏、ひき肉の順番でループしている。ちなみに今夜はひき肉のカレー。成行の一番の好物だ。


 カレーが入った鍋から、食べる分だけのカレーを別の器に移す。それを電子レンジで温める。ご飯はタイマーをセットしてあるので、もう炊けている。

 帰りにコンビニで野菜サラダとメンチカツを買ってきた。メンチカツはカレーライスに載せて、メンチカツカレーにしようという魂胆だ。


 ダイニングテーブルに置いたスマホがブルブルと痺れる。見事からメッセージが届いていた。すぐに電話が欲しいとの旨が記されている。

 一旦、ダイニングのテレビを消して電話をする成行。数秒の発信音のあと、見事が電話に出る。

「もしもし、見事さん?」

『成行君?早速、電話してくれてありがとう』

 スマホの向こうから見事の明るい声がした。その声から、どうやらアリサとは和解できたと考えていいだろう。

「それで何かあったの?」

『うん。成行君が帰った後、赤鬼さんからママへ連絡があってね、今週の金曜に私の家へ来るって』

「立夏さんが?」

 対応が早いなと思った成行。提案が拒絶されることは織り込む済みだったのか。成行は見事との会話に集中する。

『ええ。多分、成行君の転校を断った代わりに、何か代案を言ってくるんじゃないかってママは言っているわ』

「代案か・・・」

 そうなると、雷鳴が言っていたように監視をつけられてしまうのだろうか?将又、何か別な案だろうか?そんなことを考えつつ、成行は見事に尋ねる。


「まだ、その代案が何かはわかんないよね?」

 成行の問いに見事は少し沈黙。何か考えた後に答える。

『うーん。ゴメンね。それはまだ何とも言えないわ。ただ、会いに来るとしか言っていなかったらしいから』

「だよね。じゃあ、仕方ない。金曜の放課後ってことでいいのかな?」

『うん。また、学校の帰りに来てほしいわ』

「OK。連絡ありがとう。僕も心の準備をしておくよ」

『ごめんね、成行君。じゃあ、また明日学校で』

「うん、じゃあ」

 二人の会話が終わると、成行はスマホをテーブルの上へ戻す。


 今、あれこれ考えても仕方ないかもしれないが、改めて東日本魔法使い協会からのお沙汰があるだろう。見事と雷鳴が味方なのは大きなメリットだが、それでも油断しない方がいい。そう考えながら、夕飯の支度を再開する。


 レンジで温めたカレー入りの皿に、ご飯をよそう。そして、同じくレンジで温めたメンチカツをぶっきらぼうにカレーの上へ載せて、買ってきた野菜サラダのカップを開ける。

「さあ、食べますか」

 また、テレビの電源をオンにして、成行のグルメが始まった。

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