第三章 その③「話し合い」
翌日の放課後。
成行は見事と共に、調布の静所家へと向かった。昨晩の内に、立夏とのやり取りを雷鳴へ説明しておいてくれた見事。そのおかげで話が早く進みそうだ。
静所家へ着いて、リビングへ案内される成行。すると、ソファーでは既に雷鳴が座って待っていた。
「わざわざ来てもらって、すまないな」
成行を見るなり、雷鳴はソファーから立ち上がり近づいてくる。
「いえ、そんなことないです。むしろ相談にのってもらうのは僕ですから」
テーブルを挟んで雷鳴と対面する形でソファーに座る成行。見事は成行から見て、雷鳴の左隣に座った。
「いきなり無茶苦茶を言ってきたな、連中は」
腕を組み、足も組む雷鳴。
「僕の魔法が強すぎるから転校してほしいって事らしいんですけど、『特定監視能力』って言うんですか?要は僕を監視下に置きたいってことですよね?」
雷鳴へ心中を吐露する成行。思わず不平不満が彼の表情にも表れる。
「そう考えていい。ただ、理由としてはそれだけじゃないだろう。九つの騎士の書の絡みもあるだろうし、それを狙う連中のこと。それに魔法強化剤のことも。複数の理由が絡んでるはずだ」
そこは冷静に情勢判断する雷鳴。
「別に僕は魔法を悪用したりする気はないです。
「それは正論だ。だが、東日本魔法使い協会は難癖つけてユッキーを監視下に置きたいのだろう。まあ、事情が事情だけに連中の考えも、わからん訳ではないのだがな・・・」
雷鳴は何か考え込むように話した。
「えっ?」
雷鳴の言葉に一抹の不安を覚える成行。
「いや、別に私は連中の味方をするわけじゃないぞ。それは誤解するな」
成行の表情からすぐに不安を察知したのだろう。雷鳴は念を押すように言う。
「それを聞いて安心しました」
ほっと胸を撫で下ろす成行。
「でも、どうするつもりなの?このままだと、成行君が転校させられちゃうよ?」
不安げな表情で見事は言う。彼女の様子を目にした雷鳴は成行に尋ねる。
「ユッキー、立夏とは今週の金曜に会うんだよな?」
「ええ。金曜に回答すると言いました」
「なら、金曜日にここへ立夏を呼べ。私も見事も立ち会う。ユッキー単独では回答させない」
決心したかのようにキッパリ言い切った雷鳴。
「そう言ってもらって助かります」
雷鳴の言葉に、成行の顔には安堵の色が広がる。雷鳴の言葉は力強く感じた。これなら何とかなるかもしれない。楽観的な考えが成行の中に生まれる。
「ただし、ユッキーの転校を断るとすると、別の要求をしてくるだろうな」
一転、雷鳴は難しい顔をして言う。
「別の要求ですか?」
「ああ。魔法使い協会が、『はい、わかりました。諦めます』とは言いまい。こっちが拒絶することも考えて別の要求も考えているはずだ」
雷鳴の言葉を聞いて成行の表情が曇る。転校以外に何をさせようというのか?成行はその『別の要求』に関して尋ねる。
「例えば、どんな要求です?」
「そうだな。例えば、ユッキーの監視役をつけるとか?」
「僕に監視役?」
まさか漫画やアニメのように、誰かが自分の家にやってくるのか?雷鳴の言葉を聞いて、そんなことを想像する成行。
だが、監視役がくるならば、可愛い女の子とかが来るのか?ド定番の魔法少女とか。それも悪くないかも・・・。
「ユッキー。監視役に可愛い女の子が来るとか考えてるのか?魔法少女とか?」
雷鳴の一言にギョッとした成行。何でそんなことがわかるのだ。彼は慌てる。さらに、雷鳴の一言を耳にした見事が無言で睨んでくる。その視線と殺気には嫌でも気づく。
「いや、待って!僕、そんなこと一言も言ってませんよね?っていうか、何で見事さん僕を睨むの?」
慌てて釈明する成行。何も悪いことをしてないのに何でこんな目に遭う?いや、邪念はあったかもしれないが。
「ふんっ!」と言って、そっぽを向く見事。
「ちょっと!誤解です!僕は無実だ!」
必死に誤解を解こうとする成行。
「まあ、考えられるのは御目付の派遣だろうな。見事もそんな顔をするな。まだ、結論は何も出ていないぞ」
ご機嫌斜めな見事に対して、雷鳴は宥めるように話しかけた。
「成行君が不埒なことを考えるからいけないのよ」
プンプンとした様子で、ご機嫌が回復しない見事。
「いや、その、もう何かすいません・・・」
成行は見事に謝る。釈然としないが、一瞬でも余計なことを考えたのは事実なので。
「とにかく、向こうが無理やり事を進めるつもりでいるなら、私が助け舟を出す。だから、金曜までに単独で接触したり、向こうが接触してきても勝手に交渉を進めないこと。いいな?」
雷鳴は成行に
「はい、雷鳴さん」
しっかり返事をした成行。雷鳴の援軍が得られるのであれば、一方的に不利な条件を押し付けられることはないだろう。それこそ、転校をしなくても済むはずだ。そこは
「待てよ。そうだ。今、ここで連絡しろ」
雷鳴はポンっと手を叩いた。
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