第三章 その②「保留」

「転校?僕が」

 予想だにしないリクエストに困惑する成行。それは想定していなかった。

「どうして?どこの学校へ転校するの?」

 思わず頭に浮かんだことをそのまま口にする成行。

「私の通う学校、西武蔵にしむさし柏餅かしわもち幸兵衛こうべえ学園」

 立夏の口にした学校名。聞き覚えのある学校だった。それもそのはずで、その学校は成行の通う柏餅かしわもち幸兵衛こうべえ学園の兄弟校だった。


「どうして僕がそこへ転校するの?」

 率直に理由を知りたい成行。

「西武蔵柏餅幸兵衛学園は、魔法使いの学校だからです」

 『そうきたか』と心の中で呟く成行。まさかの魔法使いの学校だったとは。単なる系列校としか考えていなかったので、気にもしていなかった。しかし、成行はあることを思い出していた。


「待てよ?確か、西武蔵は西東村にあるんだったよね?」

「はい、そうです。もうご存じかと思いますが、西東村は魔法使いの村です。そこにあるのが西武蔵柏餅幸兵衛学園」

「魔法使いの村に、魔法使いの学校というワケね。でも、どうして僕が転校になるの?見事さんは魔法使いの学校に通っていないのに」

 当然、それを疑問に思う成行。魔法使いの学校というなら、それこそ見事が通っていなくてはおかしいだろう。映画やアニメなどではお馴染みの『魔法使いの学校』。魔法の技能や経験では見事が格上だろうし、そんな彼女が魔法使いの学校に通っていないのはおかしい。


「それは岩濱君の能力に関わることなんです」

 淡々と説明する立夏。本当に用件を伝えに来ただけという雰囲気である。

「僕の魔法が原因なの?」

「ええ。それに岩濱君が魔法使いになった経緯も関係しています」

 ここで真剣な表情になる立夏。

「岩濱君。アナタは非常にイレギュラーな形で魔法使いになりました。しかも、九つの騎士の書に関わる事案で。東日本魔法使い協会はこの事実を重く受け止めています。何者かが九つの騎士の書を真剣に探し求め、その過程で一般人だった岩濱君が巻き込まれた。もっとも、キミの過去の話を事実とするならば、その時点から話は始まっていたのでしょうが」

 黙って立夏の話を聞く成行。彼女の話を聞きながら、改めて自分の置かれている立場を考えざるを得ない。今、自分は魔法使いなのだと。そして、過去の出来事が脈々と今の自分へ繋がっていることを。

 成行はつまらない冗談などを言わず、しずかに立夏の話を聞く。


「キミの得た能力は危険です。炸裂の魔法。それで廃工場を破壊した。これほどの能力は、『特定監視能力』該当するんです」

「特定監視能力?」

「ええ。早い話、破壊力の大きすぎる攻撃系の魔法、瞬間移動、時間操作など、まあチートみたいな魔法のことです。これら悪用されたりすると困る魔法が使える魔法使いは、言葉はキツイですが監視対象になるんです」

「僕の魔法は破壊力の大きすぎて、それが抵触すると?」

「ええ。そうです」

「うーん・・・」

 思わず唸る成行。立夏の言わんとすることは理解できる。しかし、いきなり『アナタは監視対象です』と言われても困ってしまう。それにおいそれと転校もするわけにはいかない。まず両親には何と説明するのか?魔法使いになったから、魔法使いの学校に転校すると言えばいいのか?


「でも、いきなりそんなことを言われても、『はい、そうですか』とは言えないよ」

 その意思はハッキリと伝える成行。

「でも、それだと私たちも困ります。キミの秘めた能力は、他にもある可能性があるんです。万一、魔法の暴走が起きたらどうします?キミ一人の責任では、どうにもできないかもしれませんよ?」

 立夏の意見は正論だが、それに押されるわけにはいかない。そう感じた成行は彼女へこう言う。

「申し訳ないけど、今、ここでの回答はできない。雷鳴さんや見事さんとも相談したい。悪いけど、今日はお引き取り願いたい」

 今は回答拒否した成行。心を鬼にして立夏には帰ってもらうことにする。


「わかりました。私の訪問も唐突過ぎましたね。反省です。ですが、回答は早めに頂きたいです。今週の金曜に再度お会いできますか?」

 立夏も食い下がらない。彼女は次なる提案をしてくる。

「わかった。検討させて」とだけ答えた成行。

「では、ついでに岩濱君の連絡先を教えてくれませんか?」

 立夏はスマホを取り出す。

「いいよ。それなら構わない」

 成行と立夏は互いの連絡先を交換した。これで電話やメッセージでのやり取りをできるようになる。どう返答するかは、そのとき次第だと思う成行。

 連絡先を交換して、立夏は帰る旨を伝える。成行も彼女を引き留める理由がないので、玄関まで案内する。


「今日も見送りは、ここまででいい?」

 玄関先で立夏に尋ねる成行。

「ええ。充分です」

 ニコッと微笑む立夏。

「では、おやすみなさい」

 そう言い残して立夏は岩濱家を離れた。


 玄関で溜息を吐く成行。先程まで感じていなかった疲れがドッと押し寄せる。

「何か、疲れた・・・」

 そう呟き、背伸びをする成行。一旦、自室に戻る。座布団を片付けて、ベッドに横になる。少し目を瞑り、気分を整理する。その上で、見事へ電話をした。

 「もしもし、見事さん?」

 『こんばんは、成行君。何かあったの?』

 「実は今、立夏さんが僕の家に来ていたんだ」

 『えっ?本当に?』

 「うん。東日本魔法使い協会からのご意向を伝えに来たんだ」

 成行は立夏と話したことを見事へ伝えた。彼女は黙って話を聞いてくれた。そして、沈黙の後、成行にこう言う。

 『いきなり過ぎるっていうか、無茶苦茶なことを言ってきたわね・・・』

 声のトーンが低い見事。そこから彼女の困惑も成行へ伝わってくる。

 「うん。いきなり『転校しろ』は、僕も想像していなかった」

 頭をかきながら困った表情をする成行。

 『今の話はママに伝えるわ。取り敢えず、回答までには時間をもらったんでしょう?』

 「今週の金曜にまた会いましょうって」

 『なら、少し時間がある。明日、私の家でママも交えて話しましょう』

 「ぜひお願いしたい。転校なんかしたくないよ」

 成行はベッドに横たわったまま話す。天井を眺めながら、彼の素直な気持ちが言葉になる。不安はあるが、見事にすぐ相談したことが正解だった。次なる手立てはある。心の中で自分自身に言い聞かせる成行。

 『そうよね。理不尽な話だわ』

 見事の言葉にも何となく不満や不安な気持ちが籠っているように感じた。


 取り敢えず、明日の放課後に対策を話し合うことにした成行と見事。今夜は話すのはここまでにした。



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