第三章 その①「ゴールデンウィーク明けの来客」

 ゴールデンウィーク直前の一週間はオンとオフの練習に集中した成行。

 見事の指示通り、意識的ではなく、瞬時にオンとオフができるように練習をした。

 学校では魔法の話ができない。回りくどいが、魔法に関わるやり取りはスマホでのやりとりが中心になった。


 そして、楽しくも、忙しかったゴールデンウィークの休みが終わった翌日。連休明け初日の夕方。彼女が現れた。赤鬼立夏だ。東日本魔法使い協会・執行部員。

 その彼女が、岩濱家の前で成行の帰りを待っていた。


 立夏は岩濱家の玄関先で立っていた。彼女はまたもセーラー服姿。学校帰りなのだろうか。

「あれ?赤鬼さん?」

 その姿を確認すると成行は声をかける。ニコッと微笑みながら振り返った立夏。

「お久しぶりです。岩濱君」

「どうしたの?キミが来るなら、魔法使い協会絡みの話だよね?」

「察しがよくて助かります。ここでは何なので、家の中で」

 まるで自宅のように手招きする立夏。

「いや、ここ僕の家だから」と、苦笑する成行。だが、立夏の言う通りなので、取り敢えず自宅内に入ってもらう。


 今夜は帰りが遅いという成行の両親。だが、魔法の話をするなら、リビングではなく自室へと立夏を案内する。

「男の子の部屋へ案内されるのは緊張しますね」

 そう言いつつも、ワクワクしている様子の立夏。

「いや、別に何もないよ。普通の部屋だよ」

「いかがわしいDVDや本があるのは定番ですからね」

 笑顔でギョッとすることを言う立夏。

「やめてね。人の部屋を漁るのは」

 成行は彼女へ釘を刺す。

「何か困ることでもあるんですか?」と、天使のようにニコッと微笑む立夏。何か企んでいるな。嫌な予感がした成行は彼女に言う。

「赤鬼さん、プライバシーって知ってる?」

「諜報活動って知っていますか?岩濱君」

 嬉々として言い返してくる立夏。

「やめてね。スパイ禁止」

 立夏の言動に不安をかき立てられたので、お茶請けを中止にする成行。そのまま、二人で成行の部屋へ入る。


「お邪魔します」

「取り敢えず、ここにどうぞ」

 立夏のためにゲスト用座布団を床に置く。

 成行の部屋はドアから入ると右奥・窓際に机があり、その反対側、つまりドアから見て左奥にベッドがある。それ以外にはテレビと漫画の詰まった本棚。何の変哲もない男子高校生の部屋だ。


「ふーん。普通の部屋って感じですね」

 座布団に座って部屋を見渡す立夏。先程とは打って変わり少し退屈そうな反応だ。本当に普通だったのが面白くなかったのだろうか?

「いや、普通の高校生だからね」

 そう答えつつ、自分も床に座る成行。一応、二人は対面する形で座った。


「さてさて、今日ここへ来た目的をお伝えしなくては」

 立夏は姿勢を正し、成行に面と向かう。

「だよね。何の御用?」

 成行はゴールデンウィーク前に河下智世から言われたことを覚えていた。『連休後、東日本魔法使い協会から連絡する』との言葉。立夏はそれを伝えに来たのだろう。

「東日本魔法使い協会からのお願いがあります」

 咳払いをし、改まって話し始める立夏。

「お願い?」

「はい。岩濱君に転校をしてほしいんです」

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