第二章 その⑥「今後の計画」
「でも東日本魔法使い協会は、しっかり対応してくれるはずだし、何よりも私がいるから。安心して」
見事は優しく微笑んでくれた。
それを目にして成行の緊張もほぐれる。もう一度口にしたコーヒーがまろやかに感じた。
「今は自分のできることを一つ一つ地道にやっていくしかないね」
成行は決意を新たにするように言った。それはまるで自分自身に言い聞かせるように。
「取り敢えず、今後のトレーニングの方法を考えましょう。今まで私の家にいたけど、これから成行君は今まで通り自宅から学校に通うことになるから」
「そうだね。でも、それがネックかな?」
魔法の練習をするなら広い場所がいい。尚且つ、人目の無い場所。となると、西東村の練習場が最適だろう。だが毎日、放課後に静所家まで通うのは難しい。同じ調布市内に住んでいればよかったのだが、お隣の稲城在住の成行。静所家と岩濱家はお世辞にも近い場所にあるとは言いがたい。
「でも、成行君の場合は焦って修行するよりも、時間をかけて確実な修行にすればいいと思うわ。今回の一件で誘拐犯も成行君を襲いづらくなっただろうし、そうなると魔法で反撃するシーンが無くなると思うの」
見事はそう言うが、そこは断言できない部分だ。
「そうかな?まあ、そうなってくれればいいんだけど」
「魔法使い協会の上層部が動いてるから、執行部か御庭番の監視があるはずよ?」
その辺は自信があるのか、力説してくる見事。
「そこで今後のスケジュールとして、各週ごとに練習する内容を決めて、修業しましょう。お互いにスケジュールもあるから」
「そうだね。それには賛成」と、頷く成行。
何だかんだで見事は頼りになる師匠だ。そう思う成行。改めて修行に対して前向きな気分になる。
「まあ、オンとオフがしっかりできているから、これからはオンとオフを瞬時にできるように修業はした方がいいかも」
「オンとオフを瞬時に?」
「ええ。今の成行君はかなり意識的にオンとオフをしているでしょう?そうじゃなくて、もっと瞬時にオンとオフができるようにするの」
「そうした方がいいの?」
「うーん」と、考えて見事は言う。
「成行君が御庭番みたいなことをするとは思わないけど、どんな魔法であれ、魔法使いはオンとオフは瞬時にできるように修業して、それが当たり前にできるようにしているわ。無論、私もね」
「そういうものなんだ」
「ええ。だから炸裂さえしなければ、オンとオフの練習は普段、自宅でもできるはず。これは毎日してね」
「わかった。それなら、やってみるよ」
素直に見事の言う通りにしてみようと思う成行。確かに、炸裂させることが危険だから、それさえなければ大丈夫だというのは納得できる。
「炸裂自体の練習は、最低でも週一回することを目指してやってみましょう」
「うん。まあ、都合が合えば二回とかでもいいよね?」
「それはもちろん」
そう話す二人は部活に入っていない。学校の方針として、部活への加入は生徒個人の自由としているので、どこかの部活へ入部せずとも問題はない。なので成行も、見事も放課後は基本フリー。時間はあるという算段だ。
「さて、基本的な今後の流れは、今みたいな感じでいいかしら?」
「うん。取り敢えず、これでやってみよう。ダメなら、変えればいいし」
「そうね。ただ、問題は上がどんな判断を下すかなのよね?」
少し考え込む表情の見事。
「上って、東日本魔法使い協会がってこと?」
「そう。何かしらの指示は絶対あるはずよ?九つの騎士の書。工場の爆発。それに成行君が魔法使いになったこと。色々と盛り沢山すぎるから」
「そうだね。改めて羅列すると色々あり過ぎたよね」
苦笑する成行。盛り沢山というより、問題山積と言った方がいいかもしれない。
「まあ、何かあったらすぐ連絡してね。私はこれで帰るわ。コーヒー、ご馳走様」
「うん。良いおもてなしができなくて、ゴメンね」
今まで泊まり込みで世話になったのに、こちらはインスタントコーヒーだけというのはやはり寂しいと思っていた成行。
「いいわよ、気にしないで。気軽に飲めてこそ、インスタントコーヒーの良さなんだから」
気遣い無用と言わんばかりに微笑んだ見事。その仕草に雷鳴の面影を感じた。
成行は見事と共に玄関へ向かう。
「駅まで送るよ」
成行は一緒に外へ出ようとする。
「大丈夫。今日はここでOKだから」
そう言って見事は成行のお供を断った。
「また、明日学校でね」
「うん。じゃあ」
こうして見事は岩濱家を出発した。時刻は十六時半を過ぎていた。
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