第二章 その⑤「青鬼」

 コーヒーを口にして、見事は『ふうっ』と溜息を吐く。それは気持ちを落ち着かせているようにも見えた。

「成行君、凄い人に会ったのよ。私たち」

 見事は興奮を抑えるようにゆっくりと話す。


「えっ?あのおじさんって凄い人なの?」

 わざと面識の無いふりをする成行。見事には申し訳ないが、青鬼の情報を得るため、彼女を不用意に不安にさせないために措置だ。

「凄いって言うか、あの人って殆ど姿を見せない人なの」

 見事はもう一口コーヒーを口にしてから話し始める。

「そもそも、御庭番の魔法使いは誰なのか?それはわからないの。それくらい秘匿性が高い。それに関しては、少し話した通りだけど」

「うん」と頷く成行。その辺りは解説して貰った部分だ。

「で、その御庭番のトップが、あの青鬼あおき最優さいゆうっておじさんなの」

 そんな凄い人物だったのか。確かに御庭番・番長と自己紹介していたが。単なる不審者ではなかったということか。成行は今朝のことを思い出しながら考える。


「私も初めて会ったの。あのおじさんには」

「そうなんだ」

 その回答が少し意外に感じた成行。見事の口ぶりでは如何にも面識があるように感じたからだ。実際、赤鬼あかぎ武実たけみとは面識のありそうな雰囲気だったので、青鬼にも一回くらいはあったことがあるのでは?そんな風に思っていた。


「ちなみに、赤鬼武実さんとは会ったことがあるの?」

 赤鬼に関しても、それとなく尋ねる成行。執行部という組織のトップ・赤鬼武実。わかりやすく強そうな容貌の男性であり、実際に強いのだろう。魔法でも、格闘技でも、何で戦わせても瞬く間に敵を葬り去る。まるで格闘技漫画やアクション映画の主人公のような印象が強かった。

「それはあるわ。執行部のトップだから、その関係でママへ会いに家へ来たこともあるし。まあ、それでも数回くらいだけどね」

 見事はインスタントコーヒーを美味しそうに飲む。

「今日、私たちは日本の魔法界のお偉方と会ったっのよ?ただ、本物の青鬼さんに会えたのは、さすがに驚いたけど」

 そう言って苦笑する見事。

「そんなに凄い人なのか・・・」

 正直、青鬼に対してあまり良いイメージがない成行。工場で助けてもらったが、あれも自分をにして、誘拐犯を追いかけていたはず。

 ついでなので、青鬼に関してもう少し聞いてみる成行。詳細な情報でなくとも、得られる情報は仕入れた方がいいだろう。


 再度、成行はそれとなく質問する。

「青鬼さんも強い、というか凄い魔法使いなの?」

「それは勿論よ。それこそ戦闘系の魔法使いでは赤鬼家に並ぶトップクラスの魔法使いなんだから」

 自分のことではないのに少し自慢げに答えた見事。

「へえー、そうなんだ」と、相槌を打つ成行。

「とはいえ―」

 今度は少し躊躇ためらうように話す見事。

「あまり青鬼家には関わらない方がいいわ」

 見事は真剣な眼差しで成行を見る。成行は空気が変わったことを感じる。

「それは一体どういうこと?」

「そもそも御庭番は任務上、魔法使いの世界の裏面に関わる仕事が多いって言われているの」

 見事はまるで囁くように話す。

「影の戦争を戦っているの。例えば、外国のスパイとか、テロリストとか、将又はたま、大企業とか。魔法を利用しようとする連中を始末するのが御庭番。だから、かかわらない方がいい。御庭番にも、青鬼家にも。知らない方がいいこともあるわけ・・・」

 見事の感情を消したような表情に寒気を感じた成行。そうなると、自分は大事おおごとに巻き込まれている。伝説の魔法の本を追いかける謎の特殊部隊。そして、それを追う御庭番。

 今更知らない方がいいと言われても、もう自分は当事者だ。成行の表情が強張る。

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