第二章 その④「岩濱家へようこそ」

 14時半を過ぎた時点で、雷鳴は未だに帰っていなかった。自力で帰ろうと思った成行。見事の魔法のおかげで荷物も軽い。わざわざ車を出してもらうこともない。

 予定を変更し、雷鳴の送迎無しで帰ることにしたが、見事が一緒に来ることになった。


 二人は再度、路線バスを利用で調布駅を目指した。駅へ着くと、京王相模原線の橋本方面行の電車に乗る。

 成行も、見事も着替えなかったので、二人とも制服姿で稲城へ向かう。区間急行でおよそ10分の移動時間。京王多摩川駅を出発するとき、二人で京王閣競輪場の方を見ていた。


 稲城駅へ着いてからは徒歩で岩濱家へ向かう。路線バスはあるが、それを利用せずとも歩いて行ける距離だ。成行は見事に確認する。

「見事さん、家まで歩くけどいいよね?」

「構わないわ。そんなに時間はかからないんでしょう?」

「うん。徒歩10分くらいかな?」

 いつも学校へ行くときとは違い、のんびりと歩けるのは悪くない。そう思う成行。そして、一緒に歩くのが魔法使いの師匠である見事なのだ。

 それを意識すると、少しばかり緊張する。よもや、こんな美人なクラスメイトと日曜に歩いているなんて。高校入学前には考えられなかったことだ。


 そんなとき、成行は歩いている最中に思い出したことがあった。

「あっ!」

 不意に足を止める成行。


「どうしたの?成行君」

 キョトンとした見事。

「しまった!家の鍵を雷鳴さんに施錠してもらっていたんだ。見事さんは開けられる?」

「そう言えば、そうだったね」

 見事も思い出したのか、ポンと手を叩く。

「できるかしら?やってみるから、まずは成行君の家へ行きましょう」

 再度、二人は歩き始めた。


 成行の言うとおり、ほぼ10分で岩濱家に到着。成行は見事を岩濱家敷地内へ案内する。そして、自宅の玄関前で鍵を取り出す。

 成行は玄関ドアに触れる。異常無し。ドアを触って痺れたり、魔法のトラップが発動することも無い。普通に施錠はされていることを確認した。

「試しに普通に開けてみるよ?」

 成行はそう言って、玄関ドアに鍵を差し込む。

「うん」と、頷く見事。


 恐る恐る開錠を試みる成行。雷鳴が他に魔法トラップでも仕掛けていないかと心配だった。が、拍子抜けするくらい普通に開錠できてしまった。

「あれ?普通に開いた・・・」

 これには、『おやっ?』と思った成行。魔法による施錠がされていたのだろうか?そう思ったが、通常の施錠はされていたので良しとしよう。

 何事も無く解錠できたので、見事も少し不思議そうに首を傾げる。

「ママ、どんな魔法をかけたのかしら?」

「まあ、ちゃんと施錠されていたから良しにしましょう。さあ、中へ」

 成行は自宅内へ見事を案内した。

「ただいま」と、誰もいないが一応言う成行。すると、見事も「お邪魔します」と言ってくれた。


「ん?」

 成行のスマホにメッセージが届いていた。それは父からのメッセージだった。予定通り、明日の午前中に母と二人で帰京するとの旨である。

 手早く返信すると、成行は見事をリビングに案内する。両親はいないし、遠慮する必要はない。

「見事さん、ここで待っていて。僕はバッグを部屋に置いて来るから」

「わかった」


 2階の自分の部屋へ戻り、旅行用バッグから荷物を全て取り出す成行。中身の片づけは後にして、まずは見事の対応だ。すぐに下のリビングへ戻る。

 その途中でダイニングへ向かい、何かお茶請けになるものはないか探した。こんなときに限ってお菓子がないので、コーヒーを用意することにした。

 いそいそとコーヒーカップを用意し、インスタントコーヒーを作る。

「おまたせ」

 慣れない手つきでお盆にコーヒーカップを載せ、リビングへ現れた成行。

「あっ!ゴメン。何か気を使わせて」

 コーヒーを運んできた成行に、見事は遠慮がちに答える。

「こっちこそ、気の利いたお菓子もなくて、コーヒーしかないけど」

「ありがとう」

 見事はささやかな歓待に笑顔をみせてくれた。


 見事はソファーに座っている。静所家のように対面型でソファーは置かれていないので、成行は見事の隣に座った。

「どう?見事さんの家に比べたら凄く普通だよね?」

 ごくごく普通の家で、静所家のような格式も無い。よく言えば、普通。悪く言えば、退屈だろうか?

「えっ?いや、そんなことないよ。普通ってことは、大事なことだと思うから」

 見事は首を横に振りながら、成行へ気を遣ったような回答をした。

 経済力では静所家には全く及ばないだろうが、岩濱家は別段家計が苦しいわけでもない。中の中レベルの経済力の家だといえる。


「そうだ、一つ気になったことがあったんだけど、いい?」

 成行はコーヒーカップ片手に尋ねる。

「何かしら?」と、見事もコーヒーカップを手にする。

「見事さんは青鬼さんを知っているの?」

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