第二章 その③「帰宅準備」

 朝食会が終わり、品川駅まで歩いた成行と見事。品川駅到着は11時半を過ぎていた。二人は山手線で新宿へ向かい、京王線へ乗り換える。新宿駅へ着き、タイミング良く京王線の特急に乗れたので、調布駅までは15分で到着できた。

 調布駅へ着いてから、路線バスで静所家を目指す。駅から静所家最寄りのバス停までは片道15分程で着く。結局、二人が静所家へ着いたのは13時を過ぎていた。


 昼時ひるどきを過ぎているが、朝食自体が遅かったので、二人ともそこまで空腹を感じていない。なので、昼食は無しにして、成行の帰り支度を始めることにした。

 まず、借りていたゲスト部屋を掃除する成行。見事は簡単に掃除すればいいと言ってくれたが、せっかく世話になったのだ。しっかり掃除しておきたい。成行は掃除機や雑巾を借りて掃除をする。

 そのとき、成行はふと思った。魔法使いである見事や雷鳴は、掃除するときに魔法を使わないのだろうか?借りた掃除機は、ごくごく普通の掃除機。床を勝手に徘徊する全自動型では無い。おそらく、そのタイプの掃除機は静所家の構造上、不向きなのだろう。


 掃除機での清掃を終えると、自分の荷物をまとめる成行。その段階で見事が現れた。

「成行君、荷物をしまうんでしょう?」

「うん。これからね」

「じゃあ、私が手伝うわ」

 さも当たり前のように言う見事。

「いや、それは僕がやりますよ」

 丁重にお断りするつもりだった成行。しかし、見事は成行の旅行用のバックに手をかざす。すると、一瞬何かを念じて、成行にこう言う。

「これでいいわ。成行君」

 ニコッと微笑んだ見事。

「えっ?」

 何が起きたのかイマイチ理解できていない成行。

「今、旅行用バッグの中に全部荷物が入るようにしたわ」と、得意げに答える見事。

「もしや、空間魔法で?」

 自分のバッグを指さした成行。

「そうよ。一時的に収納能力を倍にしたの。あと、昨日返してもらった通学鞄やスマホも貸して。空間魔法で傷や汚れを綺麗に再生させるから」

「本当に?それは助かります」

 自分の攻撃的な魔法に比べると、見事の空間魔法は普段の生活で応用が利く。これは便利で羨ましいと感じる成行。


「あれ?でも、この前はどうして制服を再生させなかったの?」

 ふと思った成行。自分が失態。文字通り、見事を『丸裸』にしてしまったが、彼女の空間魔法を使えば、すぐに制服を再生できたのではないのか?そんな疑問が生じた。

 すると、頬を赤くして言う見事。

「あっ、あれは成行君が悪いのよ!」

「すいません・・・」

 見事の反応を見て、シュッとする成行。


「でも、確かにそれは説明しないとね」

 気を取り直して、見事は真面目に解説する。

「結論から言うと、再生できなかったの」

「再生できなかった?」

「ええ。これは成行君の魔法の特性かもしれないけど、私の制服は文字通り木端微塵になった。つまり、再生不可能なくらいに木端微塵だったの」

「それって凄いこと?」

「凄いっていうより、もはや脅威ね。再生魔法が通じないんだから。でも、岩を木端微塵にしたときは再生できたのよね。その違いがいまいちわからないけど」

 少し考えながら言う見事。


「じゃあ、もっと僕自身が魔法のことをしっかり覚えなきゃだね」

「そういうこと。自分の魔法の特性をしっかり理解しておかないといけいない。また、裸にされたら困るし・・・」

 ジトっと成行に視線を向ける見事。

「本当にすいません・・・」


 見事は破損した成行の通学鞄とスマホを再生させた。やり方は先程と似たような感じ。手をかざして、一瞬念じるだけで綺麗に元に戻った。

「凄い。っていうか、便利だね。これ」

「うん。それは自分でもそう思うわ」

 少し得意げな見事だった。


「じゃあ、試しに旅行鞄に通学鞄も入れてみて」

「えっ?うん」

 心の奥底では少し疑っていたが、衣類を入れた旅行鞄に、さらに通学鞄がスッと入ってしまった。外部から見れば全く違和感がない。が、あっさりと入ってしまったことが、逆に気持ち悪い。

「うーん。何か凄く不思議・・・」

「そりゃあ、魔法だからね」

 嬉々として言う見事。


「じゃあ、持ってみて」

 旅行鞄を持つように指示する見事。言われるがまま、鞄を持ち上げる。

「うおっ!なにこれ!」

 あれだけの荷物が入っているのに少しも重くない。中に何も入っていないのではと思うくらいに軽い。

「見事さんの魔法が便利過ぎて、現代科学がかすんでみえるよ」

「ねっ?とっても便利でしょう?」

 何だかテレビショッピングのようなノリになってきていた。そんなこんなで、荷物まとめが終了する。ここで一息つくことになった。

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