第一章 その⑥「朝食会」
「さあ、座ってください」
智世は三人に手招きをする。
「遠慮なく」
そう言って雷鳴が最初に椅子へ腰かける。成行と見事もそれに続く。雷鳴を中心に、右側に見事。左側に成行が座った。
先程の男性店員が雷鳴たちに話し掛ける。
「お飲み物はいかがいたしますか?」
「私はホットコーヒーを。二人はどうする?」
雷鳴は両サイドの二人に確認する。
「僕もコーヒーで」
「私も」
「かしこまりました」
恭しく言って立ち去る男性店員。
「ここのレストランはサンドイッチが美味しいんですよ?朝食にも最適ですから、用意しました」
上品に喋る智世。彼女の言う通り、目の皿に用意されたサンドイッチは彩り豊かで食欲を誘う。野菜の緑や赤い色。桜色のハム。卵の白と黄色。パンに挟まれた具材が春の陽気を演出している。
「確かにここのサンドイッチは有名だからな」
大きな皿へ一堂に会したサンドイッチを眺めながら言う雷鳴。
智世の視線が成行へ向かう。ニコッと微笑んだ表情から敵意を感じないが、油断すべきではないと身構える成行。
「岩濱成行君ですね?」
「はい。そうです」
思わず智世に頭を下げた成行。
「今日はお越しいただき、ありがとうございます。貴方にはぜひお聞きしたいことが沢山あって」
「はい。何なりと」
智世の言葉に、思わずそう答えてしまう成行。
「気をつけろユッキー。
雷鳴が透かさず言う。そこは笑っていいのかわからず、苦笑するしかない成行。
「雷鳴さんたら。失礼しちゃいます」
雷鳴の言葉を聞いて、智世は上品に怒っている様子を示す。
「さっさとサンドイッチを食べよう。サンドイッチは鮮度が命だぞ」
そう切り出したのは
昨日会ったとき、彼が何と言っていたかを思い出そうとする成行。『名前を聞けば、みんな顔が青くなる』だったか。
青鬼は赤鬼に比べると、細面の印象がある男性。体つきも赤鬼に比べると細い印象だが、それは弱々しいという意味ではない。赤鬼が勇猛な武士なら、青鬼は忍者というイメージがしっくりくる。
「岩濱君、単刀直入にお聞きします。昨晩の爆発は、アナタのせいですね?」
智世の問いかけに、サンドイッチを取ろうとした手が止まる成行。
「はい。僕の仕業です・・・」
神妙な面持ちで答える成行。サンドイッチを手に取ろうとした手を思わず引っ込めた。
「別にアナタを責めているわけじゃありません。御庭番や執行部から報告を聞いていますから」
優しく語りかける智世。
「岩濱君、アナタ何者かに狙われていますね?」
「ええ。何者かに狙われています」
「心当たりはありますか?」
智世の問いかけに、一瞬言葉に詰まる成行。
「あります。一応・・・」
智世から目を逸らさず、ジッと見つめて答えた成行。ここで雷鳴と見事に目を向けると、何か変に疑われるのではないかと案じた。
「大丈夫。そんなに緊張しないで。『九つの騎士の書』ですよね?」
智世の言葉に雷鳴は渋い顔をした。
「どうかしましたか?」
雷鳴の表情に気づいた智世は、わざとらしく尋ねる。
「いや、別に・・・」
雷鳴は短く答えると、目の前のサンドイッチを適当に自分の皿へ移す。
すると、ここでコーヒーが運ばれてきた。
「ナイスタイミング。ちょうどコーヒーが飲みたかった」
雷鳴の言動がわざとらしくて、安い芝居がかっている。そう感じた成行はそっと彼女の言動に注意を払う。
「雷鳴さん。今回の件に関して、アナタにも伺いたいことが沢山あります」
智世は雷鳴に話を振る。
「あー。はいはい・・・」と、あしらおうとする雷鳴。
「うふふ。『はい』は、一回で十分です」
「くっ!」
智世のペースに雷鳴が押されている。目の前の出来事が意外に感じた成行。分が悪いのか、雷鳴にこれまでのような勢いがない。この智世さんという方は本当に凄い人かもしれない。
「三人とも遠慮せずにサンドイッチを堪能してくれ」
そう言ったのは赤鬼武実だ。彼は厚切りのカツサンドをチョイスして口に運ぶ。カツの衣がサクサクと気持ち良い音を立てる。
「じゃあ、私も」
見事はレタスとトマト、チーズの挟まれたサンドイッチをチョイスした。それを口に運ぶ見事。その瞬間、レタスのシャキシャキした良い音が響く。
「んっ!美味しい!」
思わず笑顔の見事。その表情を見ていると食欲が湧く。顔というものは嘘をつけないもので、本当においしいからこそ自然と笑顔になる。
見事の反応に感化され、成行は引っ込めた手をもう一度サンドイッチに伸ばした。チョイスしたのは彼女と同じサンドイッチ。手にして初めて気づくが、パンは余分な水分を吸っておらず、手触りが心地よい。
成行がサンドイッチを口にした瞬間、レタスの新鮮で歯ごたえの良い音がした。食べやすい厚さのトマトがレタスの邪魔をしない。料理人の創意か、トマトの水分がサンドイッチを台無しにせず、レタスと上手くマッチしている。これが食べる者の食欲を駆り立てる。
「まあ、取り敢えずサンドイッチですね。食べましょう」
智世もサンドイッチを手にする。これをきっかけに本格的な朝食が始まった。
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