第一章 その⑤「三人の魔法使い」

 雷鳴は黒いジャケットに、少し長めの黒のタイトスカート姿。成行と見事は学校の制服姿で来ていた。私服でのんびり行くような場面ではなさそうなので、事前に打ち合わせた上で訪問した三人。


 地下駐車場からエレベーターでは一旦、地上1階までしか行けない。そこからビル内1階の受付を通過して、ようやくビル内部のエレベーターへ乗り換えになる。これもテロ対策の一環だと雷鳴が解説してくれた。


 地上1階受付を済ますと、ビル5階のレストランへ向かう。時刻は午前8時45分。約束の時間には間に合っている。

 ビル内はまばらだが、人はいる。日曜でも働く人はいるし、ビル内にはグローバル・シャトル以外のレストランや喫茶店もある。そこを利用する人たちだろう。

 三人が5階のグローバル・シャトルに着くと、店員らしき若い男性が入口で立っていた。

 「おはようございます。岩濱成行様ですね?」

 男性店員はいの一番に成行へ声をかける。

 「はい。そうです」

 少し緊張気味に答える成行。

 「それに静所雷鳴様と、見事様」

 店員は二人にも笑顔で話しかける。

 「いかにも」

 「はい」

 雷鳴と見事も返事をする。


 「お待ちしておりました。中へどうぞ」

 若い男性店員の誘導でレストラン内へ入る三人。

 すると、店内はだった。他に客はおらず、店員の姿もない。心なしか、店内の照明も抑え気味に感じた。

「本日は貸し切りとなっておりますので」と、男性店員が三人に語りかける。


 レストラン内の奥のテーブルへ案内される三人。店内はあまり堅苦しい雰囲気はないが、ファミレスのようなカジュアルな雰囲気でもなかった。

 奥のテーブル、円形状のテーブルには三人が腰掛けて成行たちを待ち構えていた。40代、50代くらいの男性二人と、30代後半くらいの女性が一人。女性の両サイドに男性陣が座る形で、椅子に腰かけている。しかし、そこに赤鬼立夏の姿はなかった。


 テーブルには様々な種類のサンドイッチとサラダが並んでいた。

 成行たち一行に気づき、立ち上がる三人。

 「おはようございます。皆さん。今日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」

 そう言ったのは30代後半くらいの女性だ。上下、水色のジャケットとタイトスカート。黒髪のロングヘアで少しおっとりとした印象の美人だ。

 「私は河下かわした智世ともよ。東日本魔法使い協会会長です」

 その女性はそう言いながら自己紹介をした。

 「久しいな、智世」

 彼女に話しかける雷鳴。馴れ馴れしいのは互いに顔見知りだからだろう。


 「私も自己紹介を―」

 智世の右隣に座っていた男性が自己紹介を始める。長身で筋肉質な男性。スーツ姿をしているが、格闘家か、軍人のような雰囲気で、間違っても普通の会社員には見えない。歳は50代前半だろうか。

 「私は赤鬼あかぎ武実たけみ。昨日、岩濱君に会った立夏の父です。私は東日本魔法使い協会の執行部・部長を務めています。よろしく」

 軽く会釈をする武実。成行と見事も、それに合わせて会釈した。

 「あの、立夏さんは本日?」

 見事が武実に尋ねる。

 「別件で今日は不在です。申し訳ない」と、短く答える武実。


 そして、最後に智世の左隣に座っていた男性が自己紹介を始める。こちらもスーツ姿がビシッと決まっているが、かけているサングラスが如何にも悪党っぽい。

 しかし、ちゃんと似合っているので、弱そうな雰囲気がしない。頭の良い悪党という雰囲気だ。

 「おはよう、岩濱君」

 その声を聞いてギョッとする成行。それは聞き覚えのある声だったからだ。忘れもしないあの声。自宅で、昨日工場で聞いたばかりの


 「私は青鬼あおき最優さいゆう。青い鬼と書いて青鬼あおきだ。御庭番・番長を務めている」

 「えっ!」と、驚きの声をあげたのは成行ではなく、見事だった。

 「見事さん、知り合いなの?」

 思わず尋ねる成行。

 「いや、知り合いじゃないんだけど。うーんと・・・」

 答えに窮している様子の見事。


 見事の反応に、何かあるのだろうかと思う成行。その一方で確信を持つ。この声に聞き間違いはない。あの不審者の男の声だ。よくよく見てみれば、体のシルエットも何となく、あの黒い上下の衣類で覆われた姿と同じようにも感じる。


 何が待ち構えている?そんな風に考えながら、成行は平然を装う。



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